1 異世界転移
ようこそいらっしゃいませ。
ごゆっくりどうぞ。
「おい、聞いたか?例の話。」
「なんだよ。」
「隣のクラスのひろしってやつ、知ってるべ?」
うちの高校には、ちょっと頭のおかしい生徒がいる。まぁそんな生徒はどこにでもいるが、うちのは特にヤバい。
そいつは異世界転移出来るなんて法螺話をド真面目に語ってるんだ。
そんなことはあり得ないし、聞いたやつは大概信じない。
しかもそいつは勉強も運動もまともに出来ない。
この間の定期考査でも赤点を取ったらしいし、部活動にも関わることはない。
そんなことだから、尚更信じるようなやつはいない。
「でもよ、少し妙なんだ。」
「何が?ただの頭のおかしい馬鹿じゃないか。」
「その……、ひろしは帰りのホームルームが終わったら一目散に教室から出ていくみたいなんだよ。」
「それはただ教室に居づらいからじゃない?」
うちの高校は寮生として一年間生活する事が決められている。
授業時間外にも自分の専攻する分野の勉強をすることが単位の一つに入っている。
そして期末に、レポートを提出しなければならないのだが……、
「どうやら尞にも帰ってないらしいんだ。いつも門限ギリギリまで外出してるみたいでさ。」
「どこか遊びに行ってるんだろうし、さっきから考え過ぎだよ。」
「遊びに行くのは他にも沢山いるけど、誰もひろしを見たことないんだと。」
もしかしたらそいつ、マジで異世界に行ってるんじゃねーかって、
「そんな風に俺も妄想してみたりしてー。」
「いやいや、ないでしょ。もうこの会話がキモいよ。さっさと俺たちも帰ろう。」
この時までは、俺たちもただの他人事に捉えていたんだ。
ひろしはその日、寮に帰ってくることはなかった。すぐに連絡網が回り、担任や教員達で近くを捜索したが見当たらず。警察まで出動する大騒ぎになった。近所の大人たちも総出で探したらしい。
俺たちにも、心当たりがないか聞かれたけど、誰もひろしの行きそうな場所なんて分かるはずがなかった。
友達もいない、知り合いと呼べる人すらもいないんだし。
そして、結局誰も見つけることが出来なかった。高校二年生の夏のことだ。
一週間、一ヶ月、と月日が過ぎて、
皆進級して、俺たちの学年も卒業した。
二年後、成人式の時に開かれた同窓会でも、その事が話題になった。
ひろしの捜索はまだ続いているらしい。
誘拐されたとか、死んだんじゃないかとか言われている。
当時、ひろしの寮の部屋から、不可思議な文字で書かれたノートが何冊も見つかっていたという。
その他に手掛かりは発見されることはなかった。
もう誰も顔を覚えていない。
やっぱりあいつ……。
まさかな。漫画やアニメじゃないんだし。