千恋*万花 茉子√After
「将臣さん。起きてください」
「あと、5分だけ……」
「ダメですよ起きてください。起きないなら、私も布団に入っちゃいますよ」
すると、将臣さんは起きるどころか布団の端っこに行き、私が入れるスペースを作ると「茉子、おいで」と誘い入れてきた。
「ホントにいいんですか?」
「うん。茉子が良いなら」
私は、スカートに皺がつかないように慎重に布団に入ると、将臣さんが後ろから抱きつく形にくっついてきた。
それもそうだ、この布団は1人用であって2人が一緒に寝るという想定で作られた物ではない。
私は正臣さんがくっついていることに心臓がバクバクいっているが落ち着くために目を閉じると、自然と眠気が襲ってきた。
「少しなら……いいですよね?」
私は将臣さんの方を向き、二度寝をすることにした。
「茉子~どこにいるの?」
私は家の戸をひとつひとつ開けて、幼馴染で忍者である『常盤茉子』を探す。
茉子は毎朝5時に起き、お風呂掃除と一緒に入浴をする。そして、私たちの朝ご飯を作ってくれる。しかし、お風呂掃除は終わっているのに、朝ご飯の支度が出来ていなかった。なので私は炊飯器を開け、ご飯の量を確認してから『おにぎり』を作ることにした。おにぎりは具なしの塩むすびしか上手く作れない。具があると、綺麗な三角形にならないで楕円型になってしまうから。
そんなこんなで、開けてない扉はあとひとつとなった。
その部屋は、私の婚約者だった有地将臣さんが泊まっている部屋だった。
私は有地さんを起こさないように扉を開けると、茉子と有地さんが抱き合って寝ているのが見えた。
「え?……茉子?」
気が動転している。この状況は2人にとっては当たり前なのに、私にとっては当たり前の光景ではなかった。
私はゆっくりと起こさないように茉子たちに近づくと、気配で察したのか茉子が目を覚ましてこちらを見てきた。
「……芳乃……様?」
「はい。芳乃です」
「え?えぇー!よ、よよよよよよ、芳乃様!こ、これは別に……」
茉子は焦ってまともに喋れていない。
「大丈夫よ。べ、別に2人で寝るのは悪いことではないです。でも、寝坊は良くないですよ」
「はい。……すいません」
茉子は徐々に落ち着きを取り戻し、再び有地さんを起こし始める。そして、有地さんが起きたのは10分後のことだった。
「おはようございます」
「おはようございます。将臣さん」
「おはようございます。有地さん」
俺が起きると、居間には茉子と朝武さんが朝ご飯を食べていた。因みに今日の朝ご飯はシンプルに塩むすびだった。
俺が座布団に座り、おにぎりを取ろうとすると、朝武さんが「今日は休日なので、茉子と一緒に出かけて来てはどうですか?」と提案してきた。
すると茉子が「えっ、でも家事とかありますし。さすがに芳乃様にやらせるのは・・・・・・」と遠慮するが、朝武さんは気にしてないようだ。
「茉子、朝武さんは大丈夫って言ってるし、久しぶりに出かけよう」
「じゃ、じゃあ。今日1日よろしくお願いします」
「よろしく」
その時、朝武さんの目が光った気がした。
「将臣さんとデートかぁ~久しぶりだなぁ~」
最後にデートをしたのは、まだ私に犬になる呪いがかかっていた時だったから、2ヶ月も前のことか。
あれから、私は犬の姿になることは無く、綺麗に呪いが解けていた。これも将臣さんのおかげ。なのに、未だに目を見て上手く話せない。恋人と言うのに……
私は1度自宅に帰り私服に着替える。
今日着る服は、正臣さんと初めてデートした時に着た勝負服。
これを着ると、私の初めてを正臣さんに捧げた時を思い出し顔が熱くなるのがわかった。
「私ってば、何を考えているんですか!」
自分の思考が変な方向に行っていることに改めて自覚し、時計を見ると既に10時を指していた。
正臣さんと約束している時間まであと30分。そして、待ち合わせ場所は芳乃様の自宅。歩いては少し時間が掛かるが、今から行けば余裕を持って到着出来る。
私は財布をスカートのポケットに入れて家を出た。
茉子が着替えに帰ったあと俺は自室に戻った。
自室の戸を開けると、ムラサメちゃんが布団の上で可愛い寝息をたてながら寝ていた。
「帰って来てたんだ。……さて、着替えるか」
着ていた服を脱ぎながら時計を見るとまだ、9時20分だった。着替えるにしては時間が早いのを分かっておきながらタンスを漁る。
結局、デートと言いながらも服装はいつもと同じTシャツにパーカーとジーンズというラフな格好になってしまった。
「こんな感じでいいかな?」
あまり硬っ苦しいと、変だし。 姿見の前で1人、今日の服装を確認をしていると、ムラサメちゃんが起きた。
「おはよう。ムラサメちゃん」
「あぁ、おはよう。ご主人。どうしたんだ、そんなに嬉しそうな顔をして」
言われて気づいた。久しぶりだからだろうか、茉子とデートに行くことに内心、心が躍っていた。それが、顔に出ていたようだ。
「今日は茉子と出かけて来るんだ」
「それは良かったな。ご主人は最近疲れている見たいだったし、いい気分転換になると思うぞ」
ムラサメちゃんの言うとおり、ここ最近は忙しかった。朝武さんとの婚約解消に茉子の呪いの解呪に中間試験。どれも大変だった。
試験の結果としては、散々なものだった。どの教科も赤点ギリギリだった。俺のテスト結果を見た茉子たちから笑われたのは記憶に新しい。
「そういえば、ムラサメちゃんは今まで何処に行ってたんだ?」
「吾輩は散歩をしていた。この前まであんなこともあったからこの町をちゃんと見てなかったからな」
ムラサメちゃんと話していると、戸を叩く音がした。
「どうぞ」
俺がそう言うと、朝武さんが入って来た。
「有地さん。って、ムラサメ様!」
「あぁ、おはよう。芳乃。どうしたんだ?」
「今日は有地さんと茉子が出かけるので、有地さんのコーディネートに……と思ったんですが、大丈夫そうですね」
朝武さんはそれだけ言うとそそくさと部屋を出てってしまった。
その後もムラサメちゃんと世間話をしていると、遂に茉子が来た。
「おはようございます。ムラサメ様」
「おはよう、茉子」
茉子は俺と初デートをした時の服を着ていた。
それを見ると、俺が童貞を卒業した時を思い出し少し勃ってきたが、すぐに冷静になった。
流石に耐性は付いてる気がする。多分。
「じゃあ、行くか」
「はい」
今回のデート場所はやはり穂織の町だ。だとしても私にとっては地元なので少し恥ずかしい。
「将臣さん、今日は何処に行きます?」
「う~ん。やっぱりあそこかな?」
私たちは甘味処『田心屋』に来た。
「いらっしゃいませ!……ってお兄ちゃんと茉子さん!」
「小春ちゃん、まずは席に案内しないと」
「そうだった。では、お席へご案内します」
小春ちゃんに案内された席は初デートの時に座ったお座席だった。
私はいつも通りゴマ団子を頼み、将臣さんはあんころ餅を頼んだ。
「そう言えば、将臣さん。さっきムラサメ様と話してて思い出したんですが、将臣さんってもう地元の方には戻らないんですか?」
「多分。母さんにはもう話してあるから完全にこっちに住むことになってる。でも、このまま朝武さんの家に泊まらせてもらうのは悪いし、どうしようか……」
「レナさんに頼んで……でも、部屋が無かったりするとあれだし……あっ!確か私の家に1つだけ開き部屋があったような……ちょっと母に確認してきます」
私はそう言って田心屋を出てお母さんに電話する。
なかなか出ない、洗濯でもしているのだろうか?少し待つとやっとつながった。
「もしもし、お母さん?」
「どうしたの?今日は将臣さんと出かけているんでしょ?」
「そうだけど。お母さん、家に開き部屋ってあったっけ?」
「あるわよ。確か、あなたの部屋の二つ隣にあるわよ。なんで?」
「将臣さんをそこに住まわせるのは無理かな?」
お母さんは少し悩んだあと「いいわよ」と了解してくれた。
私は電話を切って中に入ると、将臣さんはあんころ餅を食べていた。
「将臣さん、母に聞いたらOKが出ました」
「なんか、ごめんな。まぁ、これからよろしく」
「はい!よろしくお願いします」
今日から四六時中将臣さんと一緒にいることを考えるだけで鼓動が早くなり顔が熱くなる。
私の顔をみた将臣さんは「食べないの?」って顔をしてくる。
私は完全にゴマ団子のことを忘れていた。
「いただきます」
ゴマ団子を口に入れ噛むと、口全体にゴマの風味が広がり餡子といい感じにマッチする。
「やっぱり、ここのゴマ団子は美味しいですね!将臣さんもどうですか?一つ」
「いただくよ」
「はい。あーん」
私はゴマ団子に黒文字を刺し将臣さんの口に向かって差し出すと、口を開いてゴマ団子を食べた。
ちなみに、黒文字とは和菓子を食べるときに出てくる木の尖ったやつだ。
「美味しい。やっぱりここにある甘味は全部美味しいな」
「ですよね!あっすいません!カステラください!」
「はーい」
「なぁ、茉子。さっきからなんか、視線を感じるんだけど……」
「え?ホントですか?」
私は周りを見渡すと視線の主を見つけた。
「レナさんと芳乃様!」
私が声を掛けると、2人は焦りながら話しだす。
「ナ、ナンデスカ?茉子」
「どうしたんですか?2人なんて珍しいですね」
「そ、そうなんですよ。偶々そこで会って……」
「「ねー」」
「そうだったんですか。失礼しました」
私が将臣さんのところに戻ると、また視線を感じ芳乃様たちの方を見ると、2人は一瞬にしてに伏せる。
「はぁー。全く……」
「付いてきたんだな」
「そうです。そうだ!将臣さん、次は私の家に行きましょう!」
「もう、家に行くのか?」
肝心な時に限ってとぼけるなんて将臣さんたら……
私は芳乃様たちに聞こえないように話す。
「せっかくのデートなんですから、2人きりでしたいじゃあないですか。だから……」
「わかった」
私は追加注文したカステラを食べ田心屋を出る。お会計は将臣さんがしてくれた。
「では、行きましょうか」
俺は茉子につられて茉子の家に来た。
「お、お邪魔します……」
「ただいま~」
すると、リビングから茉子の母親が出てきたと同時に茉子の顔を見てにへらとした顔をする。
「もぉ~将臣さんが来るなら、言ってよ~」
「別にいいじゃん。あっ、将臣さんは先に部屋に行っててください。お茶を持ってくので」
「わかった」
俺は階段を上り茉子の部屋に行く。
部屋の襖を開けると、一気に女の子の匂いがした。部屋に入り座布団に座る。前に一度来たことがあったが、その時は茉子がパンイチで部屋に来たりしてよく部屋を見ることが出来なかった。
俺はじっくり部屋を見ると、本棚には少女漫画が多かった。多いと言うより9割型少女漫画だった。
「やっぱり、女子ってあんまり青年漫画を読まないんだな」
どんなタイトルがあるのか見ようとした瞬間、お茶を持った茉子が入って来た。
俺を見た茉子はジト目で「将臣さん?何をしてるいるのですか?事と次第によっては刺しますよ」
「いやね?女の子ってどんな本を読んでるのかな~っと」
「そうだったんですか。何か変なことをしているのかと思いました」
茉子はいつの間にか持っていたクナイをどこかへしまった。あれを見ると、茉子と初めて会った時のことを思い出し、冷や汗が出てくる。
「将臣さん、家に来て早々ですが、空き部屋の整理をしませんか?」
「そうだね。明日からこっちに来るわけだし、しようか」
俺たちはお茶を一気に飲み干し、茉子の部屋の2つ横にある空き部屋に向かった。
「じゃあ、開けるぞ」
俺は襖を開けると、埃の匂いがした。
「やっぱり埃ぽいですね。長い間使われていませんからね」
そう言うと、茉子は部屋に入って行く。そして、いつの間にか手には、はたきと雑巾と水が入ったバケツを持っていた。
「では、将臣さんは埃が少ない所を水拭きで拭いてください。私は埃が多い下の所をはたきますので」
俺は茉子から雑巾を貰い、壁を拭く。一拭きしただけで雑巾にすごい量の埃が取れる。窓は開けているものの、マスクはしてないからくしゃみが出そうだ。
俺たちは掃除だけで4時間かかった。
「おつかれ」
「お疲れ様です。汗もかきましたしお風呂、入って行かないですか?」
今の俺の状態としては、汗プラス埃という最悪なコンビが誕生しているからお風呂をもらうことにした。
「ではごゆっくり。服は私が持っている男物を置いときます」
それだけ言って1階にある脱衣所兼お風呂場を後にし自室に向かう。
部屋に入ってからタンスとクローゼットを漁り将臣さんが着れそうな服を探すがなかなか見つからない。
「スカートが多いなぁ……そうだ、Tシャツだけ貸して上着とズボンははたいとけばいいですね」
私は白のTシャツを取り出し脱衣所に持っていく途中、お母さんに呼ばれた。
「どうしたの?」
「せっかくだし、夜ご飯食べてってもらったら?」
「それは無理だと思う。いつも通り芳乃様の方でご飯を作るし、その時は将臣さんと一緒に行っちゃうし……」
「そうよね……でも明日からは一緒でしょ?」
「そ、そうだよ」
私はTシャツを持っていることを思い出し、急いで脱衣所に行く。幸い、まだ将臣さんは出てきていなかった。私は将臣さんが着ていた服を回収し私のTシャツを置く。
「将臣さーん。服、置いときました」
「ありがとう」
会話が終了したと同時にリビングに服を持っていき粘着シートを持ってくる。
私は一通りシートを掛けると、また急いで脱衣所に向かう。将臣さんはまだ出ていなかった。
「なんか、将臣さんのお母さんみたいな感じだな。今の私」
今の作業をしていての率直な感想だった。
「お風呂と服ありがとう。服は洗って返すよ」
「大丈夫ですよ。だって明日からこの家に住むんですから」
そうだった。忘れていた。てか、忘れ過ぎだな。自分の記憶力を疑うようになってきた。
俺は用意されていたコップにお茶をつぎ、一気に飲み干す。
「なぁ、茉子。そろそろ戻らないとヤバくないか?」
俺は思い出したかのように時計を見ると、6時近かった。どうやら茉子も気付いていなかったらしい。
「ほ、ホントだ……将臣さん急ぎますよ」
そう言うと茉子は玄関に急いで行き、外に行ってしまった。
俺は茉子の母親に例を言い家を後にする。
家を出て走ったが、茉子の姿は見えなかった。
「忍者だから早いな」
俺はお風呂上りと言うのに朝武家についた頃にはTシャツが背中にくっついていた。
俺が家に入ると、安晴さんが出迎えてくれた。
台所を見ると、茉子が料理に専念していた。
「ただいま~」
「おかりなさい!遅かったですね将臣さん」
茉子が得意げな顔をしながら答えてくれる。
「あれ?朝武さんは?」
「芳乃はお風呂に行ったよ」
お茶を啜っていた安晴さんが教えてくれた。
とりあえず俺は荷造に自室に戻ると、案の定ムラサメちゃんがいた。
「ただいま」
「おかえりなのじゃ。どうだったか?」
「とても楽しかったよ。それと、ムラサメちゃん」
俺が急に真剣なトーンで話すと、ムラサメちゃんの頭の上にハテナマークが出てきた。
「明日から、茉子の家に住むことにした」
「なっ!急に。このことは芳乃は知っておるのか?」
「わからない。茉子が話してないなら知らないんじゃないかな?」
「でも、なんで急に」
俺は驚き戸惑っているムラサメちゃんに移住に至るまでの経緯に話した。
「なるほど。でも、吾輩はここに残るけど大丈夫か?」
「それは大丈夫。念のために叢雨丸は持っていくよ」
そういって俺が荷造を始めるとムラサメちゃんは何処かに行ってしまった。
俺はスポーツバックに着替えやら何やらを詰め込んでいると、誰かが扉を叩く。
「将臣さん。ご飯が出来ました」
「わかった」
俺が部屋を出てリビングにいると、ムスッとした顔をした朝武さんとぎこちない顔をした茉子がいた。安晴さんはまだ仕事があるので神社に戻ってしまった。
「えっとーどういう状況なのかな?」
「ムラサメ様から聞きました。この家から茉子の家に移るみたいですね。理由を聞いてもいいですか?」
朝武さんは怒っているのか分からないテンションで話す。
「俺はもう朝武さんとは婚約関係は無くなり、新しく茉子と付き合っているだろ、なら出来るだけ長く2人の時間が取れればいいかなって思って」
「なるほど。そういう事ならいいですよ。でもその前に一言。あなたたちは夫婦ですか!」
いきなり大声を上げられ2人で驚く。
「何が二人の時間が取れればいい。ですか!まだ恋人でしょ!会話だけが先に進んでますよ!もぉ、こうやって怒る人がいるので気を付けてください」
ツッコミの続きかと思ったら、忠告だった。
「じゃあ、いたただ来ましょう」
「「いたただきます」」
朝武家で取る最後の夕食が始まった。
メニューとしては、ポテトサラダに焼き鳥風の鶏肉と言った簡単なものだったがどれもとてもおいしくてこれからの生活が楽しみになってきた。
初の二次創作。
作者は茉子勢です。
一作目に選んだのはゲームブランドの「ゆずソフト」さん。
個人的にファンなので決めました。
好評だったら、他のヒロインのAfterも書きたいなと思っています。
正直に言ってFateも書きたい。