モールでの出来事
喫茶を出て、ルーナの服を選ぶことになったトオル御一行。
ルーナちゃんはいろいろな服に着替えるのでした。
近くの大型ショッピングモールに着いた俺たちは、さっそく服屋を漁った。
女の子の服装なんてよくわからない俺は、ただただじっと見ていただけだったが、唯とルーナはすごく楽しそうであった。そうして数店舗を渡り歩いたのち、結局最初に入った店で見た服を買ったのだった。
「やっぱりこれかわいいよねえ」
「えへへ、ありがとうございます」
ルーナは白いセーターに短めのサロペットパンツをはいていた。素足が丸見えなのが少々恥ずかしいのかもじもじとしている。全体的に幼稚っぽく見えるが、年齢相応の可愛さがしっかりと出ている。なお、長い銀髪は後ろで束ねている。
唯はというと、だぼだぼで大きめのパーカーに、隠れてしまうほど小さいパンツでエロさを出しつつも、帽子をかぶることでスポーティな雰囲気になっている。短髪で活気のある彼女らしいコーデになっていた。
「うむ、二人とも十分かわいい」
「ありがとうございます」
「トオルも褒めてくれるんだね、ありがと」
ふたりとも楽しそうでなによりだ。
服を見回ってすっきりしたのか、僕達はお腹が空いたことに気づく。
ということで、同じくモール内で食事をとることになった。
「う~ん、ルーナちゃんかわいいなあ」
自分で服を選んだためにさっきからずっとこの調子である。唯はひたすらルーナを可愛がっていた。
「もうこの際、トオルの家じゃなくて私の家に来る?」
こんなことを言う始末だ。
「いえ、私はトオルの身体を見つけないといけないので、トオルさんと一緒にいます」
「ちぇ、残念」
ルーナよ、うれしいことを言ってくれるじゃないか。よし、今度何か奢ってやろう。身体が見つかって、キャッシュカードが使えるようになってからな。
そして、俺ははたと思い出す。
「あ、俺通帳あるじゃん」
「……」
唯がジト目でこちらを見る。
そうだ、通帳あれば財布なくてもある程度お金あるじゃん。俺の食事代はないも同然だし、しばらくそれで過ごせる。こんな初歩的なことに気づかなかった俺が恥ずかしいぜ。ルーナよ、安心しろ。飯は食べさせてやれるぞ。
そんな今後のことを思案していた俺たちはその突然の音に驚いた。
バリンッ!!!
それはガラスの砕け散る音で、しかも複数回響いた。まるで誰かがモールのガラスを意図的に砕いているかのようだった。
「な、何事だ!」
「一体なにがあったの!」
俺たちが食事をしているファミレスの外からやたらとざわざわと声がする。
そのうちにそこから悲鳴のようなものがたくさんあがりはじめた。
「逃げろー!」
「きゃー来ないでー!」
「うああああああ」
どうにも様子が分からなかったので、会計だけ済ませて店を出る。モールの二階にいる俺たちは吹き抜けになっていて下が見下ろせる場所まで走った。
悲鳴のあがった一回の入り口、そこには大型の白い生物がいた。薄い膜のような羽を背から生やし、前身は骨でできた四足歩行のドラゴン。口からはなにやら紫色の息を吐いている。
となりからヒッっと小さく悲鳴が聞こえた。
みると、唯が気絶して倒れていた。唯は怖いものにめっぽう弱い。だからと言って、今この場で倒れなくてもいいだろ!
ルーナは近くでその白い影をとらえると、その生物の名を答えた。
「あれは、スカルリザード! この世界にもいたのですか!」
「いいや、あんなやばいやつはこの世界にはいない! どういうことだ!」
スカルリザードと呼ばれたそれは朦々と口から紫色の煙を吐く。すると、その息が触れたエスカレーターがどろどろと溶けていった。
「やばいやばい。あんなん食らったら即死だぞ!」
早いところ逃げなきゃ。しかし唯は目覚めない。
「マジかよお!」
起きろよ!
その間にもスカルリザードはずるずると二階に上ってくる。まるで何かを探しているかのように。
「おい! ルーナ! 何とかできないのか!」
幼い子にこんなことを言うのもなんだとは思ったがここは緊急事態、異世界の知識をもったルーナしかあてはなかった。
「私もスカルリザードを見たのは初めてです。どうやって追い返したらいいか……」
「くそう! それなら逃げるしかないな」
俺は無理だと思ったがぬいぐるみの状態にもかかわらず唯を持ち上げようとする。
すると重さで唯につぶされる。
「ぐへ!」
つぶされた俺の視界は真っ暗になる。
その途端、なぜかよくわからないが急に体が重く感じられた。
意識が、よくわからない。
目を覚ますと、俺の視線は天井を向いていた。
起き上がると、先ほどまで見ていた視界よりも高い位置に頭が来た。
背中に違和感を覚える。つかむとそこには白いぬいぐるみがあった。
自分の身体を見ると、ダボダボパーカーを着ている。
それで確信した。
「俺、今唯の中に入ってる!!?」
突然現れたスカルリザード。それから逃れるべく、唯を起こそうとするが、トオルは唯の体の中に入ってしまう。はたしてこれからどうなるのか。
乞うご期待。