既知なる道
異世界転生したかと思ったら、すぐさま日本へ。
はたして異世界人のルーナはどうなるのだろうか。というかトオルの身体はどこなのだろうか。
地に足を付ける。
さっきまでいた土のある地面でなく、しっかりと舗装されたアスファルトの上。
街灯には蛾が群がり、少し先にはコンビニの看板が光っていた。
「ここは……どこでしょう。異世界のように感じます」
ルーナは少し不安な調子で問う。
「ここは、日本だ。俺の故郷」
俺が知っている場所と知ったルーナは、少し安心した表情を見せるとすぐさま物珍しそうにあちこちを見始めた。硬くて黒い地面。家があるところにはみんな灰色の塀が建てられ、木々も少ない。空から見てもここが先ほどまでいた異世界と違うことは明白であろう。
上空から見れば美しい景色だったここは、いざ地上に降りてみれば人気の少ない寂しい夜道に変わってしまっている。それでも、見たことのない建物を見るのが楽しそうといった表情でルーナは目をキラキラとさせていた。
「ここは俺が知っている道……か」
そうだ。ここは俺が知っている道である。
たとえここが日本であろうと、知らない場所であれば異国に来たも同然。しかしそのようなことはなく、俺自身の家のすぐ近くであった。
「……ルーナ」
「はい! なんでしょう」
突然呼ばれて驚いたのか、びくっとして返事をする。
「もう夜遅いし、俺の家に行こう。道案内する」
「はい、わかりました」
ルーナはぬいぐるみである俺を拾い、指示通りに歩き出した。
「着いたぞ」
「ここ……ですか」
「ああ、そうだ」
着いた俺の家は、お世辞にも綺麗とは言えないボロアパートの一室であった。
階段はギシギシと不気味な音をたて、扉の開閉は気を付けなければ外れてしまう。そろそろ引っ越ししたいと親に頼むにも、ろくに働きもせずただ親のすねをかじる俺としては言い出せない。
「随分汚い部屋なんですね」
「お前が言うなよ」
部屋に入るや否や失礼なことをいう小娘ではあったが、こいつの部屋だって爆発跡やらなにやらで汚かっただろうが。人のふり見て我がふり直せとはこのことだな。
「とりあえず、今日はもう寝ちまおうぜ。明日のことは明日決めよう」
「はあ……」
ルーナはどこか浮かない顔をしている。
「どうしたんだ?」
「え、はあ。もしかして、私これで寝るんですか?」
指の差された先には俺のよく使う布団。見るからに不衛生と言わざるを得なかった。
「安心しろ。それは俺が使う。お前のはこっちだ」
俺はルーナに指示して押入れの客人用の布団を出させた。
しぶしぶといった顔ではあったが納得したようなのでそのまま布団に入る。
「これで寝れるぜ」
俺は自分の身体の数倍以上大きい布団の中で静かに眠りについた。
どうも。三文小唄です。
話進まなくてつらい。次回こそ、トオルたちを異世界……じゃない、日本でのスローライフな日常を……というか一体どうなるんだろうねこれ。