霊媒師ギルドからの脱出
禁忌を犯してしまい、霊媒師ギルドに狙われるルーナ。彼女は捕まりたくない一心でこのギルド国から逃げることに。トオルはというと、とりあえず自身の身体を探すためルーナに同行する。
果たして無事逃げ切れるのか。トオルの身体はどにあるのか。
どうぞご覧ください。
ここ霊媒師ギルドは、ひとつの小国家のような存在である。
世界の霊媒師たちが集まり、ひとつの国として成立したものだ。
一人前の霊媒師を目指すものやさらなる高みを望むもの、依頼などでやってきた冒険者などがこの国の人口のを占める。中には、死霊術や黒魔術、特殊な錬金材料やポーションなどを目当てにやってくる者たちもいた。
その中で、ルーナは生まれも育ちもこの霊媒師ギルドの出であった。
霊媒師ギルドは、霊媒師を目指すものなら生活の保護が与えられる。なんと寮にただで住まわせてくれる上に、月々いくらかのお金も支給されるのだ。
先ほど抜け出したあの部屋も、ルーナが借りていた寮の部屋であった。
「おい、ここからどうやって抜け出すんだ。行く当てとかあるのか?」
「いえ、あてはありません。私ここ以外知りませんから。でもとりあえず別の国に亡命しましょう。あなたの身体が見つかれば元に戻せますし、そうすれば私の魔術の証拠も残りませんから」
「ほら、あそこ。門番いるな」
「ええ、いますね。あれを抜けないことにはほかの国に行けませんね」
「どうするんだ?」
「まあ、見ていてください。私だって霊媒師の端くれです。魔術でちょちょいのちょいですよ」
彼女は地面に魔法陣を召喚する。するとその中央から継ぎはぎだらけの犬が現れた。
「(召喚:屍猟犬)」
小声で魔法名を言い終わると、陣は解け、ゾンビのような犬が尻尾を振りながらルーナに歩み寄った。
「よーしよし、がぶちゃん。かわいいですね~」
「……」
かわいいというよりは気持ち悪いの分類に入るだろうその犬は、動作だけは普通の犬とそう大差なかった。ルーナの銀色の髪の毛をなめまくる。
「ちょ、やめっ。がぶちゃん、やってほしいことがあるんだけど」
一応召喚主だからか、命令に反応して待ちの態勢に切り替わる。
「あのねがぶちゃん、あの門番さんをどこか遠くに追いやってくれない?」
「ワンッ!」
了解の意を示す鳴き声を残した後、その犬は門番のところまで駆けていった。
「あれで行けるのか?」
「もちろんですよ、あの可愛さを見ていなかったんですか? どんな人間もがぶちゃんのかわいいさにメロメロなんです。門番だって、逃げるがぶちゃんをつい追っかけたくなりますって」
「……なんだかダメな気がする」
しかし想像とは裏腹に、犬は門番に追いかけられながら門番を門から引き離していた。見ると、犬の口には財布が加えられていた。あいつ、なかなか賢いな。
「ね、でしょ」
「お、おう……」
誰もいなくなったがら空きの門。そこをルーナは俺を抱きながら走り抜ける。
門を抜けた先――そこには大量の杭が地面に刺さっていた。その杭の下はもれなく土が盛り上がっており、一目でこれらすべてが墓であることを知らせてくれた。
「ここは第七墓地ですね。ギルドの門はひとつを除き、ほとんどがギルド外の墓地とつながっているんです」
「おい、ならなぜその墓地のない門へ逃げなかった」
「だってそっちは人通りが多いんですもの。交易や貴族の通り道とかで結構大きいところですから」
「そうか。にしても、墓場多いな。そんなに歴史が深いところなのか? ここは」
「いえ、違います。霊媒師ギルドはそこまで歴史が深いというわけじゃないですよ。死霊術は古来からのものですけど、このギルドはここ百年ほどでできた国なんです」
割と歴史が浅いのか。百年ほどしか経っていないのならそういわざるを得ないな。
しかしたかが百年でこれだけの死者が出るとは思えんのだが。
その疑問に彼女は応えた。
「ここは、もともと戦場だったんです。そこをとある霊媒師が切り開いて作ったのがこのギルド。死体があるほど霊媒師は強いですからね」
「なるほどなあ」
となると、ここには怨念とかいっぱいありそうだなあ。スピリチュアルとか信じないタイプの俺だったが、現に生霊である今、ただただ不気味に感じるのであった。
「さあ、とっととこの墓地を抜けようぜ」
「はい! トオル」
この墓地に手を合わせて慰霊を済ませた後、俺たちは墓地を抜けたのであった。
次回、ルーナは墓地の先にある未知なる道を進んで他国を目指します。
食料は大丈夫なのでしょうか。そこがいちばん気がかりです。