ルーナから教わった灯り
うねうねとその体をくねらせる4体のスライム。それらはフードを目深にかぶり、その青や緑の肌を隠していた。遠目で見ればまず間違いなく人に見える。
4体は一斉に俺たちを睨んだ。実際に目はないので睨んでるのかわからないが。
スライムの一体、その腕が再び唯、ルノワに伸びる。
「ピグミー! あれをとめろ!」
「あいよっ! 任せてくだせえ!」
俺を抱えていないほうのピグミーゾンビがかろうじてその触手ともいえる腕を食い止める。
「あ、危なかった……。もうなんなのよ、あいつら!」
「ルノワちゃん、立てる? トオルたちのとこに下がろう!」
二人とも怪我はなく、すぐに下がることができた。
「ぐあっ!」
先ほどまでスライムの腕をつかんでいたピグミーゾンビが別のスライムの触手攻撃で後方へと吹き飛ばされる。
「これはまずいな……。宿屋のおじさん、これがわかってて水汲みを俺たちにやらせたんだな……」
後悔は先に立たず、このスライムたちに対して俺たちは何もすることができない。
「ピグミー、お前たちであれをやっつけることってできるか?」
「そうですなあ、俺たち1対1ならやれないことはないですが、4体ともなると、相手取るのは厳しいですぜ」
「そ、そうか……」
万事休すか……。
「待って! トオル、私の召喚獣も入れれば勝てると思うわ!」
いつの間にか地面に文様を書き始めていたルノワがそう叫ぶ。その文様は魔法陣のように複雑な円陣を描いていた。
「でもまだ魔法陣が完成してないわ、それまでトオル、時間稼ぎ頑張って」
「頑張れって、俺じゃどうしようもない……」
吹き飛ばされたピグミーゾンビが戻ってくる。
「ちぇ、ちょっと油断したぜ、トオルさん、あんたも魔法使えるんだろ、それ使ってけん制しましょうや」
「いや、魔法陣がなけりゃ俺も魔王つかえな……あ」
そういえばルーナからもらった魔法陣が掛かれたメモがあるじゃないか。たしかあれは小さな青い炎が出るくらいだけど、何もないよりましだな。......よし」
俺とピグミーゾンビはスライムに向かって走る。
「まずは一体ずつ蹴散らすぞ! やつらを分裂させるぞ、各個撃破だ!」
俺は魔法陣の書かれたメモを取り出し魔法を唱える。
「青炎灯」
ちょっとした青い炎が手のひらに灯る。それを持ってピグミーゾンビと共に突っ込む。そして青い炎をスライムの中に押し込む。
「これでどうだ!」
「……」
ささったぬいぐるみの手をスライムは見つめる。なおも燃え続ける炎が腹で暴れているが、そのスライムはダメージが入ってないように見えた。
「……」
「……これ、ダメなやつか」
スライムは大きく触手をふるうと、ぬいぐるみの俺を軽く吹き飛ばした。
そりゃ、ぬいぐるみすら燃えない炎じゃあねえ、スライムは倒せませんよ。




