湖畔の村
前回からの更新が長かったせいで心配されたかと思いますが、はい、大丈夫です。まだ続いてます。
ぬいぐるみ姿の俺、それを抱くピグミーゾンビと追従するもう一体のピグミーゾンビ、人間の唯とこの世界の魔術師ルノワ。まるで意味の分からない一行は現在、目的地霊媒師ギルドに向かう道中にあった一つの村に滞在していた。
その村は荒野にひとつぽつんとおいてある湖の近くに栄えており、しかし周りに何もせいでそこまで大きくもない村であった。かつてこの道を通る際に自然とできた、主な役割が宿といった旅人の村。それは日が暮れてどうしようもなくなっていた俺たちからすれば、オアシスのように見えたのだった。
しかし俺たちは今どうしようもない問題に直面していたのだった。
「金がない」
そう、宿を借りるためのお金がないのだ。もとよりここに来た時点で無一文だった。唯一の期待であったルノワでさえポケットには飴玉一つしか入ってなかった。いや、なんで飴玉持ってんだよ。
こうして宿はあるのに泊まることも許されず、途方に暮れていたその時、俺たちはこの親切なおじさんに出会ったのだった。
そして現在、俺たちは無事宿に泊まることができたわけだ。
――ただし、条件付きで、だ。
おじさんは、無償で宿を提供する代わりに一つの要求をした。それは明日の朝、村はずれの井戸に水を汲んできてほしいとのことだった。その程度ならば、と俺たちは快諾したわけなのだ。ま、井戸汲みという力仕事は、ぬいぐるみの俺からすれば無理な話なので、実際やるのはピグミーゾンビになる。一石二鳥でもあったのだ。
「いやあ、まさか水汲むだけで宿に泊めてくれるってのは太っ腹だよな」
「そうだねー。私たちの世界じゃまず無理だよ。ここの主人さんはきっとかなり優しいに違いないよ」
「うんうん」
俺と唯は暗くなった窓の向こうに視線を送りながら、それぞれのベッドに座っている。貸してくれた部屋のベッドは2台。余った部屋とのことだったのでこの人数だと少しばかり狭い。しかしピグミーゾンビは部屋の端で座り込んで寝て居るのでそこまで圧迫はされない。問題はぬいぐるみ姿の俺が寝るところだった。ぬいぐるみとはいえ、俺はベッドで寝たい。しかし人間時代に仲が良かったとはいえ、異性のベッドに寝かせてもらうのは俺としては避けたかった。そうして出た結論が唯が一台、もう一台が俺とルノワで使うといったものだった。ルノワ自身、俺を人間扱いしてる部分はあまりなく、快く承諾――もとい命令させてもらったので、そこに問題は発生しなかった。まあ17際ちょっとの少女と寝るだなんて幸運は、ぬいぐるみじゃなかったら喜ばしい限りであったはずなのに、自然とその幸福感はわかなかった。なにも、ルノワの寝ぐせが悪いことだけが起因してるわけではなさそうだった。
既に寝てしまった、ルノワに続き俺と唯も歩いてきたその疲れをいやすため、眠りにつくのであった。
ルノワって都合がいいキャラだったりします。ええ。トオルにとっては。




