霊媒師は禁忌を犯したようです
怪しげな魔法陣とまばゆい魔法陣に挟まれて、なにやらよくわからないままにどこかに飛ばされた挙句ぬいぐるみにされた主人公トオル。トオルは、その魔術を行ったとする少女ルーナと出会う。果たしてルーナとはどんな娘なのか。
どうぞご覧ください。
先ほどまで戦利品の喪失によって慌てていたが、少女の前でこれ以上泣き続けるのは恥だと悟った俺は、少女の入れてくれたホットミルクをすすっていた。
「いやあ、しかし3時間も泣かれるのは大変ですよ~、霊体さん。これじゃあこっちが悪いみたいじゃないですかあ」
「おいやめろ、時間を言うんじゃない。あえて言わなかったのにこれじゃあ俺が3時間泣き続けるガキみたいに聞こえるぞ」
「事実じゃないですか」
「うぐ……。それよりもだ、俺は霊体さんじゃあない。新山徹って名前がちゃんとあるんだ」
「ニーヤマ=トオル? 変な名前ですね。トオルって呼べばいいんですかね。私の名前はルーナ=スペクターって言います。あけおめことよろです~」
「一昔前のお正月JKかっ」
なんだかどこか抜けた感じの少女であった。服装からしておかしいのは最初からわかっていたが。
彼女――ルーナ=スペクターは、全身を金の刺繍が施された紫色のローブで包んでおり、手には杖、頭には鍔の広い帽子といったいわゆる魔女のような衣装であった。その割には、ローブの中にはピンク色のぶかぶかTシャツとベージュ色の短パンといういかにも部屋着といった組み合わせで、全体的にアンバランスさが見てうかがえた。
「それでトオルさん、あなたこれからどうします? 私の偉大な降霊術によって召喚されちゃったんですけど、私の使い魔として働きます?」
「お前がここに連れてきたのか!」
「ええ、そうですよ! 私の魔術がついに花開いて、降霊することができたんです! ここまで来るのに一体どれくらいの努力を費やしたか……」
途端、彼女は遠い目をする。部屋のこの惨状はそのためのものなのだろうか。
「それでどうします? 使い魔しちゃいます?」
「ちょっと待て。使い魔以前に、俺はまだ死んでいないぞ?」
「え? そんなことないですよ? だって降霊できたじゃないですか」
「降霊って言ったってなあ……。ルーナ、お前俺の身体が生きているかどうかってのはわからないのか?」
「ああ、リサーチカーケスを使えば探せますよ」
「ん? なんなんだそれは」
「リサーチカーケスは死霊術の一つなんです。魂さえあればその人の死体を探せるんですよ~。身体が生きていればなんも反応しないんですけどね。主にダンジョンで死んだ人の埋葬するときによく使われるんですよ~。あとほかには攻略の時の道しるべにもなりますね。それに――」
「よくわからんがそれを使ってみてくれ」
長ったらしい説明も億劫だったので、話をむりやり区切って次に進める。
「あいあいさぁー。了解です!」
「ま、どうせすぐ近くにあるでしょ~」と彼女はぼやきつつ、何かをぶつぶつと語り出した。
「死体逆探知!!」
彼女の持つ杖の先端、その球体のあるあたりからまばゆい光が漏れ出す。飛ばされるときに見た、魔法陣のような、しかしどこか雰囲気の違う円が杖と俺の身体にそれぞれ現れる。
だがしかし、それは突如消滅した。
俺だけがきょとんそしてる中、ルーナは――
「う、嘘でしょ……。死体が……ない……」
「ほら、言ったろ? 俺は生きてるって」
やはり俺は生きていたんだ。ルーナには悪いが、俺は使い魔にはなれそうもない。それならば手っ取り早く元の身体に戻してもらいたいところだ。
「ってことは、トオルは……生霊!!?」
「ん、まあそういうことになるのか」
「うああああああああああああああ」
確認するや否や彼女は急に叫び出した。
「ど、どうしたぁ!」
「生霊を降霊させるのは霊媒師のタブーなんですよおお。これじゃ、これじゃあ私、霊媒師ギルドに捕まっちゃうよお!」
なんとまあ、ひどいことになったようだ。
ドタバタと外で人が走る音がする。
コンコンッ
「おい、ルーナ! いるか!? 緊急事態だ! 数時間前にここら一体で不審な魔術が確認されたみたいだ! それを今みんなで探してるから、お前も手伝いに来い!」
俺とルーナは顔を見合わせる。彼女は、もう今すぐにでも泣き出しそうな顔だった。
というか半分泣いていた。
「くそっ! いないのか!」
「おい、ルーナはいないのか?」
「ああ、留守みたいだ。お前はほかの連中にも声を掛けろ! またあの悲劇を繰り返させるな!」
二つの大きな足音が扉の前から消えて、部屋はまた静かになった。
「どうするの? お前さん」
「……」
ルーナは顔を伏せている。まるっきり他人事というわけではないが、すこしかわいそうに思えてきた。
「……ましょう」
「……え?」
「……逃げましょう。トオル。ここじゃないどこか遠くに」
「ええ……」
まあ彼女の考えることはごく普通のことだろう。誰しも捕まりたくはない。ましてや事故で捕まるなんて洒落にならない。
「おう、いいぜ。ただし、俺の身体をついでに探してくれるってならな」
「うん!」
ぐずぐずに顔を崩した彼女は、元気よく承諾するとぬいぐるみである俺を抱えた。
「と、とりあえず、一旦ここから逃げましょう」
「おう」
そのまま一人と一体は誰もいない廊下を小走りに抜けていった。
ルーナはトオルを持って追手から逃げるわけですが、はたしてうまく逃げ切れるでしょうか。そしてトオルの身体の場所はどこにあるのでしょうか。
乞うご期待!




