再び異世界 死の荒野
暗順応がようやく働いたのか、景色が次第にはっきりと見えるようになった。
先ほどまで、日本――ひいては地球のある世界にいたが今はその影を残さず、視界に映るものすべてがかつていた世界とは明らかに違っていた。
俺はこの世界を知っている。コミケ会場で戦利品をもっていた俺が突然空に投げ出され、飛ばされた世界。ルーナの元いた世界だった。
「わあ、ここが異世界」
始めてきた唯はそんな感嘆の声を漏らす。その姿は、俺らの世界に来た時のルーナを彷彿とさせた。
この世界は元の世界とは違う。しかしどこが違うかと聞かれると答えに困る。なんというか雰囲気が、見たこともないようなところなのだ。今俺らがいるところは乾枯とした木がまばらに生え、草は見当たらず、地面はところどころ乾いて裂けている。遠くのほうに黒い鉄塔のような建物が建っているのがせめてもの目印で、それ以外はただの荒野だった。
「暑くはないけど喉が渇きそうな場所だよね」
「俺らにはここが一番過ごしやすいですぜ。水は少ない場所ですが、魔力はたっぷりと空気に含まれてやがる。それにここらだと死の香りが俺らを安心させてくれやすぜ」
「死の香り......ねえ」
確かにここら一帯は死という文字がぴったりな場所ではあった。ピグミーゾンビらはもとより魔族だ。召喚された魔族ならば飯は食わないし、魔力があれば心地が良いのだろう。それにゾンビという属性からか死が好みなようである。
「おい、ルノワ。こっちの世界に来たはいいが、ここはどこなんだ。ルーナやマリーダさんがいる場所まで案内してくれ」
「ここは死の荒野。ルーナとやらがいるのは霊媒師ギルドなのよね。それならここから割と近いはずよ。霊媒師は死が大好きだから、こんな嫌な場所に平然と居を構えるのよ」
もはや反抗するのをあきらめたのか、それともただ面倒になっただけなのかルノワは素直に答えた。
「待てよ、お前も霊媒師じゃないの?」
「はあ? なんで私が霊媒師になるのよ。わたしはこう見えても魔術師なの。様々な魔術を扱う専門職なのよ。死しか取り柄のない霊媒師とは違うわ」
「意外だな。てっきりグリモワールは反乱した霊媒師の集団だと思っていたんだが」
「グリモワールは様々な役職の人間、亜人たちで結成された組織なのよ。今回の計画は霊媒による大規模な召喚術のはずだったのに、どうしてか異世界に行くことになったのよ。それで仕方なく私も向こうの世界に言ったわけ」
なるほどな。グリモワールは様々な人たちの混合組織なのか。まだ俺の聞き出せていない情報をルノワは持っているように思えた。やはり、彼女をマリーダさんに合わせてさらに敵のことを知ったほうがいいな。
俺たちは、ルノワの案内で霊媒師ギルドに足を進めた。
道中唯は荒野が続く景色を飽きもせずあちこちに寄り道しては目を輝かせていた。その度に俺とルノワが引きずり、もとの道を辿る。
俺は少し、最初にこの世界に来た時のことを思い出していた。
あの時は、よくわからないままぬいぐるみにされて驚いたなあ。今じゃ、このうさぎ姿も慣れてきてしまったけど。そういえば――
「俺の身体、どこにあるんだろうなあ」
いまだ見つからない自身の身体の行方を考え、絶望的なこの状況に肩を落としたのだった。
ただいま風邪をひいてます。
いや、そのせいで更新が遅くなったわけじゃあないのですが、まあなんとか頑張って書きました。
出来れば毎日更新がしたいですね。現実と理想は違うって誰かが言ってました。




