またもや異世界に
「どうしようか」
マリーダもおらず、この少女――ルノワ=テンペストの処分に関して俺は悩んでいた。
現在、マリーダ、ルーナ双方が元の世界に移動している。そしてこちらの世界ではいつどこにグリモワールの手先が現れるともしれない。そして俺の隣には、まったく関係のない笹山唯と元グリモワール構成員のルノワーテンペスト。正直手に余る状況である。あわてて出て言ったようであるマリーダも気になるし、召喚されたままのピグミーゾンビ二体もこころなしかそわそわしている。
「トオルさん、おれらマリーダ様んとこいきたいぜ」
「マリーダ様が困っているときにそばに入れねえのは契約違反になっちまいやすぜ」
この通り、彼らは異世界に行きたいと願っている。
俺自身、向こうに行ってルーナの容態を見ておきたいという気持ちもある。少しの間柄ではあるが、やはり仲良くなったのだから、付いていてあげたい。それに俺の身体も探さないといけないしな。
しかし問題は行き方であった。
ルーナと共にこっちへ来たときは、霊道という霊の通る道を、自らが霊体化することで通過してきた。はるか上空に存在した霊道の出口から落ちたときは非常に焦ったものだ。現状、俺が知っているのはこの空にある霊道一つ。それに霊体化を扱える人もいない。これでは向こうに行きたくても行く手立てがないのだ。
「マリーダさんは一体どうやって来たのだろうか」
そうなると、マリーダがどうやってきたかによるのだが、彼女もあの霊道を単独で通ってきたと言っていたことを思い出した。
「八方塞がりか」
半ば絶望の一端を垣間見た俺とピグミーゾンビだったが、そのなかで唯一会話を聞いていない1人の少女がいることを思い出す。
「おい、ルノワ」
「ん? なによ。私にまた何か命令する気? いい加減その命令には聞かないわ!」
「お前はどうやってこっちの世界に来たんだ」
「それは特殊な召喚術を利用して術者を異世界に飛ばす魔法陣を使っただけよ――ってえ、何で言っちゃうのよ! 私のバカあ!」
どうやら霊道を通る以外の方法でこっちに来たらしかった。
「よし、今それを発動できるか?」
「ええ、もちろんよ。この紙に書かれた魔法陣があれば、魔力を注ぐだけで簡単に発動できるの――だからっもうっ! もう命令しないでよおお」
ルノワは自分の首に巻かれた首輪をつかんで必死に引きはがそうと苦悶する。それでも命令があれば即座に従う姿は非常に滑稽だった。
ともかく、この魔法陣があれば行けるということが分かった。あとは行くメンバーだけだな。ルノワを連れていくか否か。
「さて、ルノワを連れて行く方がいいのか、このまま放置がいいのか」
「待って! 私も行きたい!」
すると突然、唯が声をあげた。
「私、ルーナちゃんのところに行きたい! それに異世界にもちょっとだけ興味あるの」
唯はキラキラとした表情で俺を見る。そういえばこいつは隠れオタクだったな。異世界というワードが琴線に触れたのだろう。頑として譲らない雰囲気を醸し出していた。
「たぶん危険だと思うぞ。それにお前は働いているから、数日戻ってこれないと店も困るだろう」
「私、運動神経は高いから大丈夫。それにお店にはもう連絡したから! ルノワちゃんを見ててあげるから、ね? いいでしょ?」
確かに向こうに言ったとき、ピグミーゾンビは俺を運ぶ役目をしていなければならないし、もう一体は非常事態の索敵に回すだろう。その間に命令の届かないところにルノワが逃げ出してしまうという危険性は十分にあった。こちらの情報を伝えられては困る。
「わかった。だけど無茶はするなよ?」
「うん」
こうしてここにいるメンバー全員で異世界に行くことが決まった。あとは魔法陣を発動させるだけだ。
「よし、ルノワ! 術を発動してくれ」
「もうやだあ! ――反転移召喚!!」
全力で嫌がりながらも、ルノワは滑らかにその魔法陣を光らせ、その部屋全体に光が満たされた。
前回の更新から少し時間が経ってしまいました。すみません。
さて再び異世界へと飛んだトオルたち。今回は唯とルノワ、ピグミーゾンビ二体との転移です。
異世界でさんざんだったトオルですが、はたして無事にルーナのもとへ行けるのでしょうか。




