ルノワ=テンペスト
「ルノワ=テンペストよ」
俺達のあとをしっかりと付いてくる彼女――ルノワは、俺の命令通りにその名前を明かした。
いかんせん首輪のせいで、主人である俺の命令に従わずにはいられない状態にあるので、ルノワは唯一命令されていない部分、表情でその嫌悪感を俺に訴えていた。まあ笑顔でいろなどという命令はこの際やめてあげよう。主人がその従事者の気持ちを押さえつけるようでは、まだまだ三流なのだから。
しかし、何故ルノワは組織グリモワールに入っていたのだろうか。見た目は17歳くらいだろうか。ルーナよりも少し大きいとはいえ、まだまだ少女と呼べるくらいの年齢だ。事情はさておき、悪の道に走るような雰囲気もなければ、まだまだ純粋さが残っているようにも見受けられる。それでも、もうすでにグリモワールから追い出されているのは、どうやら本当らしかった(命令で再び聞いた)。
具体的な組織構成について聞いても、ルノワは一切把握しておらず、彼女が下っ端の下っ端であることが容易に想定出来た。これだと、わざわざ連れて帰るのもためらわれるくらいである。現状もっとも詳しいだろうマリーダに問いただしてもらうのが正しい判断である以上、この若干お荷物な少女を家に連れて行かなければならないのだろう。
思考にふけっている中、気づけば俺の家に帰っていた。
さっそく、マリーダにこの少女を突き出すことにした。
が、そこには唯だけがちょこんと座っており、ルーナもマリーダも跡形もなく消えていた。
「マリーダさんは、急用ができたっていってルーナちゃん連れてどこかに行っちゃったよ」
唯によると、なにやら誰かからの連絡が来たのか、その話を聞いて血相を変えて去っていったそうだった。ルーナを連れて行ったのは単に心配だからということらしい。
その言から察するに、おそらく元の世界で何かあったんだろう。今現在、ルーナとマリーダは異世界に飛んでしまっているということであった。
どうするんだよ、この小娘。俺は、ルノワを尻目に見やりながら嘆息をもらした。
テンペストとは、暴風雨・騒動といった意味だそうです。
次回、また異世界に向かうトオル。そこに唯もついていくと言い出して……?




