決められた役割
マリーダに指をさされた俺は抗議をした。
「ちょ、ちょっとまってくださいよ! 俺、ぬいぐるみですよ? 偵察なんて無理ですって!」
「大丈夫よ。私の使役するそいつらも一緒だから」
指さすのは二体のピグミーゾンビ。その姿はローブを目深にかぶっていて顔すらまともに見えない。
「いや、だけど俺が敵を見つけてもどうしようもないですよ」
「何言ってるの。偵察なんだからそれ以上は求めてないわ。それに私はルーナを見ていなきゃいけないし、そこの女の子だって一般人なんだから。こういうのは男であるあなたが行くべきよ」
確かにマリーダの言う通りだ。
ルーナは動けない。マリーダもルーナを見ていなきゃいけない。唯だってもう危険な目にあいたくはないだろう。そうなると必然的に俺しかいなかった。
「そ、そうだ。マリーダさんが応援を呼べば――」
「無理ね」
半ば食い気味でマリーダは俺の言葉を遮る。
「ここに来てるのは私だけなの。敵組織を探している途中で見つけた霊道が、敵の使った経路だという確証はないからね。単独で通ってきたの。それにここから連絡をしているうちに敵に逃げられるかもしれないじゃない。ただでさえ、そのスカルリザードが出たのが昨日のことなんだから、敵が既に移動している可能性が高いのよ」
そうである。スカルリザードが現れたのは先日。そして倒されたことに気づいた彼らが、追手を想定して逃げようとするのも事実である。もうあの場にいないかもしれない。もしそうであるなら跡を終えるようにしておかないと、本当に見つからなくなってしまうだろう。
世界を壊しかねない魔獣を連れて、この世界に来てる可能性があるのだ。
関係ないで済む話じゃないのである。
「わかりました。でも、いざとなったら俺、自分の命を優先しますからね」
「ええ、それでもいいわ。非力な霊にもとよりそれ以上は求めていないから」
言われて気づいたが俺は今霊体。ならば俺がもし死んだらどうなるのだろう。というか、ぬいぐるみから魂だけ抜けてしまったらどうなるのだろう。しかし今はそれを考えているだけの時間的猶予はない。
果たして僕は、敵陣地を探すほかないのであった。
ここから先、非力なぬいぐるみ一体で、敵組織の跡を追うことに。
白いウサギのぬいぐるみは果たして後を追えるのだろうか。




