追う者と追われるもの
「まさか逃亡者の中にルーナがいるなんてね……」
治療が一段落し、マリーダが困惑しきった表情でそうぼやく。
「逃亡者の中にって……。ルーナ以外にも逃げてる人はいるんですか」
「ええ、そうよ。私たちはそいつらを追ってここに来てるの」
マリーダの話によるとどうやら向こうの世界でかなり危険な超級魔術を行った集団がいるらしい。そいつらは、召喚された何かを引き連れて霊道を切り開き、この世界に逃げてきたとのことだった。
俺らが通ってきた霊道はその集団がむりやり開いたものだった。通常、霊道は地上へとつながる。それが上空に展開されたのは、本来ありえないことだったのだ。
ちなみに、生霊を召喚するという禁忌を犯していたと言っていたルーナではあるが、正しくは生きている人の魂を抜き取ることが禁忌であり、今回の場合特殊なケースであるため罪かどうかグレーなのだそうだ。事情を説明すれば、不問にされるようなものだったらしい。俺たちは、無駄に逃げていたということである。
「それにしても一体奴らはどこにいるのかしら」
「ねえ、マリーダさん。その人たちは一体何をしたんですか」
唯が疑問をマリーダに投げかける。
「危険な魔術らしいわ。異世界の獣を召喚し破滅をもたらすというものだということはわかっているけど、一体それがどんな獣なのか、またどれほど危険なものかまでは未知数よ。ただし、古い文献ではたった一つの死霊術で全人口の4割が消滅したというのもあるから、私たちギルドはその集団を危険視してるの」
「4割……」
唯は驚いたようにこぼす。それもそうだ。全人口が70億近いこの現代で、4割と言えば28億人である。日本が16回ほど滅んでもまだ足りない人数が消えたということになる。それだけの魔術が行われた危険性があるのなら、確かに恐ろしい事態ではある。
「だからなりふり構わずこの世界にスカルリザードなんて送り込んできたんですね」
「スカルリザード?」
マリーダは訝しむように俺を見る。
「そんな危険な魔獣を召喚する人はいないはずよ。偵察に使うだけなら人間世界でも不審に思われにくい人の姿をしたピグミーゾンビを使うわ」
そうやってマリーダは先ほどから動かない二人組のローブ男を指さす。あいつら魔物だったのか。
「だとしたらあれは誰が出したんです?」
マリーダは思案した風に腕を組むと、未だ寝たままのルーナに向き直った。
「どうやら偵察したほうがよさそうね。あいつらが近くに潜伏している可能性が高いわ」
「探すっていったって、誰がいくんです。あなたがルーナから離れると、いざというときルーナの面倒を見る人がいないじゃないですか」
「ルーナなら私に任せなさい。偵察はあなたがするのよ」
そういってマリーダはぬいぐるみ姿の俺を指さした。
ピグミーゾンビは鼻がよく利きます。言葉を話せたりできるので遠隔での操作が非常にしやすい魔物だったりします。




