不測の不足な事態
熱で倒れたルーナ。ただの風邪のように見えないそれは、ルーナの身体をむしばんでいく。
俺は唯に電話を掛けた。唯は、仕事を急遽休ませてもらって直ぐに駆けつけてくれた。
「大丈夫!? ルーナちゃん!」
「今、熱を冷ましてるところだ」
水の張ったボウルからタオルを取り出し、絞ってルーナの額に乗せる。
しかしひどい熱だ。昨日まであんなに元気だったのに。
「ルーナ! 意識はあるか? どこか苦しいところはないか!」
「うう……。足りない……。魔力が足りないよ……」
「魔力……?」
唯は首をかしげる。
さきからずっとこうだ。ルーナは必死に魔力が足りないと訴える。しかし俺たちにそんな知識はない。何をどうすればいいか皆目見当もつかなかった。
「俺たちには向こうの知識はない。一体どうすれば……」
もはや一刻も争う事態。しかし打開策が浮かばないという絶望感に俺と唯は暗く沈んでしまっていた。
突然、外から大声が聞こえる。
「おい! ここから霊の力を感じるぞ!」
「マリーダさん! ここです」
「あら、ここに……ね」
声からしてルーナを探している霊媒師のようだった。見つかってしまったようだ。
「くそっ! こんな時に! 唯! ルーナを見てやってくれ!」
「うん、わかったよ!」
俺は扉を開け、外に出る。
すると、かなりグラマーな魔術師と二人組のローブを纏った小柄な男がこちらを見ていた。
「あなたが使役されてる霊ね。あなたの主人はいるかしら」
「今、大変なんだ。病人がいる! お前の力で助けてやってくれないか!」
「それは無理ね。私も仕事で来てるから……。それじゃお邪魔させてもらうわ」
女は男たちを引き連れて横を通り過ぎる。
「待て! ルーナに危害を加えないでくれ! 頼む!」
「ルーナ……?」
彼女はぴくっと身体を震わせ立ち止まる。なにかに気づいたのか、今度は早足に俺の部屋の扉を開けた。
そして彼女はルーナの姿を認めると、俺に問う。
「これはどういう状況なの!?」
「わからない、魔力がないってずっと言ってるんだ。助けてやってくれないか」
「助けるに決まってるじゃない。ルーナ……。久しぶりに会うと思ったらなんでこんなことに……」
「あ……マリーダさん……へへ、ちょっと魔力を使いすぎちゃったみたい……。ここ、なんでか魔力が回復しなくて……すんごいしんどいの……」
「待っててね、今治すから」
どうやらルーナと知り合いらしかったマリーダはさっそく治療を行う。ルーナの手を取り、その手を光らせる。魔力を送っているようだ。
「あとで話は聞かせてもらうからね」
きつめの口調を俺に向けていうと、彼女は魔力供給に集中する。
俺と唯はそれをただ見ることしかできなかった。
追手であるマリーダはルーナの知り合いだった。ルーナの現状をしり治療を始める。トオルはそれを黙ってみることしかできなかった。




