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運命と罪  作者: 愛姫
ドリシアル王国
4/9

派閥

 場所は変わり、ドリシアル王国。

 ドリシアル王国は十八年前まで、激動のときであった。今まで一人しか生まれなかった王女が、同じ世代に二人生まれ、王位継承権は第二王女にあった。しかし、その第二王女がある事件で亡くなり、国は大きく揺れた。やがて月日は立ち、ある時王女が蘇って帰ってきた。しかし、王女は王女であるながら王女ではなかった。体は王女、脳は一人の獣に育てられた娘のものだった。王女は国に反旗を返し、己を殺した実姉と王を殺そうとする。しかし、それは娘の思いであり、王女と娘との間に生まれた新たな人格はそれを止め、己のことを国のことを話す。罪悪感と嫌悪の眼差しに耐えかねた実姉の第一王女は、城から自殺しようとして、それを止めようと、第二王女は二度目の永久の死を迎えた。

 それからは第二王女の許婚であった大臣のキリアが国を仕切っていた。この十八年間は。

 国の望む王は無く、やがて国には不安感が生まれ、今では大きな派閥ができていた。

 キリアの率いる貿易派と局長率いる鎖国派である。最近では毎日のように喧嘩や騒動が起きていた。


 キリアは自室で机に座っていた。その顔は深い疲れが浮かんでいる。キリアは書類を離すとその手で顔を覆った。

 するとノック音が聞こえ、キリアは姿勢を正すと何だと返した。

「キリア様、局長がお見えになりました」

 小さな声がドア越しに聞こえる。

「わかった。すぐに支度をしていく」

 キリアは立ち上がり、上着に手をかけた。


「お待たせしました」

 キリアが入ると局長は礼をした。

「あれから何度も顔を合わせては同じ話だが、どうなっているんだ?」

 局長から切り出されキリアはため息をついた。

「貿易の件でしょう。私はすべきだと思います。確かに多少のリスクはありますが、シアナが死んで国は衰退していく一方です。機械科学を得意としていても、この国に活かす場所がもう無い。他国に貿易をして技術を売ることが今は必要かと思うんです。それに人工食よりも新鮮な食へと変えていかないといけない。動物も少ない中で、狩りをすれば動物は確実に絶滅する。貿易で他国から輸入することが一番確実な方法です」

 局長は顔色一つ変えずに話す。

「確かにプラスなことは多い。しかし、リスクが高いのも確かだ。他国から来た者からは貿易をした途端に国を盗られたとか、治安が悪くなったとか。国のために国を盗られるのは最悪なことだ」

 キリアは顎に手を置く。

「しかし、衰退していずれ消えてしまうのも時間の問題です。局長は鎖国したまま、この国を守れると思おいですか? もしくは案があるとか?」

「それは機械科学を駆使すれば」

「それは時間がかかりすぎます。この国が進歩したのにはたくさんの時間がかかっている。俺たちが生きている時間にそれができますか?」

 局長は目線を下に向け、瞼を閉じた。

「そう。私もそう思う。なぜこの国は今まで鎖国をしてきたのか。その真相はどの歴史書にも書いてない。何かがあるのかわからない。私はそれを破るのが怖い」

 キリアは目を開けた。

「あれ、それは、」

 つまりは、局長は今までの歴史ある鎖国を解き、貿易をすることでどのようなことが起こるか想定がつかないため、貿易の反対をしているのだ。しかし局長自身、貿易が国にとって一番の希望であることを確信しているのだ。

 キリアは目を閉じて開いた。

「俺が貿易の突破口を開きましょう。そのために隣国へ行きます。今まで他の国と貿易はせずとも応談をしていたんだ。何とかしてみせますよ。国のために」

 局長は小さく頷いた。

「私は国の亀裂がこれ以上大きくならないように努力しよう。皆国を思うのは一緒なのだ」

 キリアが立ち上がろうとしたとき、局長がそれを止めた。

「まだ話すべきことがある。キリアお前はあれ以来メンテナンスをしていない。お前がそれを望んだんだ。寿命が無いから、これ以上生きながらえるような事をしたくない。いつか壊れるその時が自分の寿命だと。それは私も同意した。だが、もうそんなにお前がもつとも思えない。これから国をまわす者のことも考えねば」

 キリアは座りなおして局長を見た。

「シアナが死んでから、もう十八年が経つ。シアナが最後に王権を選挙制にして何度か試みたが、はっきりと分かれず、この十八年間俺と局長が共に政を行うことで、国を回してきた」

「いまの派閥もそうだ。二人が同じほどの権力を持っているから、国が分かれつつある。そろそろ一人の代表を作らねば、本当に国が二つになるぞ」

 局長は入れなおした紅茶をすすった。

「俺が死ねば権力を持つのは局長一人ですよ。実際に元王族のエミリア王女が妻なんですから」

 局長は首を振る。

「強い権力を持つのは確かだ。しかし、それだけではこの国をまとめることはできない。それに、私は罪人だ」

 シアナを暗殺しようとしたのは実姉のエミリアだった。その恋仲であった局長は共犯者であった。出所したのは十三年前、エミリアはまだ牢の中だ。

 次の言葉が出てこず、二人は茶をすすった。

 沈黙を破ったのは、ドアのノック音だった。

「大臣。お客様がお見えに」

 秘書に返事をするとキリアは立ち上がった。

「この話はまたの機会に」

 局長がうなずくのを見てキリアは部屋を後にした。


 局長はすぐに横になった。そして息を多く吐き出した。少し息を荒くし、やがて静かになった。

「私もそんなに長くはいれないかもしれないからな」

 原因さえ不明の特殊な病気に侵された体が、いつまでもつのかもわからなかった。


       *


 別の応接室には、一人の商人が座っていた。その商人は旅をしながら世界中をまわっている。その商人から貿易や他国の話を聞くために王宮へ招いたのだ。

「すみません。わざわざここまで来ていただいて」

「いえいえ、商売を許可されまして大変売れ行き好調。こちらこそ御身に感謝いたします」

 キリアはお茶を出すように側近に言うと、商人の向かいに座った。

「それで本題なのですが、貿易についてどう思いますか」

「私たち商人は貿易が無ければ商売できませんので、この国が貿易をもっと盛んに行うことにより、私たちは商売がやりやすくなる。故に私はこの国に貿易を勧めます」

 商人はにこやかに笑ってそういった。

「貿易をすることによって、国がどうなったとか例はありませんか?」

「たくさんありますよ。例えば小さな国が貿易によって大きく領土を広げたとか、豊かになったとか。大きな国が、反乱を起こし国が割れてしまったとか。ああ、そうそう。貿易をすることになって国を乗っ取られた所もありました。まあ、どれも国次第ではあるんですけどね」

 側近が二人の前にお茶を出した。この国で一番希少な、高い価値のあるユジンの葉を使用した紅茶だ。深い香りとコクが人気がある茶で市場では100gで100シーン程(約1000円)の価値がある。ちなみに一番安いものはカリハという茶葉で100g10シーン(約100円)だ。

 商人はカップに手を伸ばし、香りをかいで、口をつけた。

「ユジンの葉。この国じゃ希少価値の茶葉だ。しかし、少し北の国では、とても安いもの。貿易で北の国と手を結べば、ユジンの葉は安く大量に手に入ります。逆にカリハの葉は向こうではとても希少価値のあるものです。大量に売れば大きな経済力になるでしょう」

 キリアは驚いた。

「一口飲んだだけでわかるんですね」

 商人はカップを置いて薄く笑う。

「まあ、私は何通りもの茶を飲んでますからね」

「この国では科学や機械が発展しています。それを売り出せば」

「科学や機械は実に危険だ。しかしこのまま鎖国をするというのも実に危険だ」

 急に真顔になった商人にキリアは少し恐れを感じた。

「かの昔、科学や機械で発展した国がありました。その技術を他国に教えた結果、他国が力をつけ、国が滅ぼされました。まあ、これはあの巨大地震の前の話らしいんですけどね」

「それに隣国では貿易によって国が変わりましたよ。前ライズベリー王国は前王が貿易によって己のみに富をもたらすように働いていたらしく、それを大臣が告発。反乱軍により王家は絞首刑に。その他の家来たちは奴隷として働くようになりました。奴隷ができたことにより私たち商人も富を得、貿易を始めて国は大変豊かになりました。

 キリアは考え込むようにした。

「まあ、貿易のノウハウはその隣国から聞いた方がよいのではないですか? 貿易に成功した国だ。その国はアドル王国」

 アドル王国はドリシアル王国の南に位置する小さな国である。


 キリアは商人にお礼を渡して見送った。

「なるほど、客人とはあの商人のことだったか。ずいぶんと話し込んでいたな」

 局長はキリアの横で腕を組んでいた。

「まあ、いろいろと聞けました。貿易によって成功した国も教えてもらいましたので、明日にでも便りを出してみます」

 局長はそうかとつぶやくと静かに去っていった。


 局長は牢から出てきて人が変わってしまったようだった。あの優しい表情をもう見せてはくれない。それは罪のせいか。――病のせいか。


      *


「キリア、次の王を決めるために選挙をしないか」

 貿易のことが決まった翌日、局長はキリアにそう切り出した。

「キリアと私以外で王の候補を出そう。その中から選挙を行い、次の王を決めるんだ。私と君でそれぞれ王候補を出して、国民に選んでもらおうじゃないか」

 キリアは考えた。確かにそれなら今ある支持率は、少しながら揺らぐ。両者が権力を持たないようにするにはそれが一番の策かもしれない。

「確かにそれならいいかもしれません。しかしその候補はどこから選ぶのですか」

「誰だってかまわんだろう。シアナが誰でもなれるようにしたんだ。私たちが真剣に考えればそう悪いようには転ばんだろう」

 キリアは頷いた。


 応談が終わり、キリアは自室へ戻ると天井を見上げて、心当たりがいないことに気付いた。

 知り合いといえば、シアナの姉のエミリア。局長。虎のテニトカ。前率いていた軍の部下。あとは王宮の使用人。

 エミリアはまず自分が快く思っていないこと。牢を出てこれるのがまだ先であることで無理なことがわかる。

 局長はやらないって言い張る始末。

 虎のテニトカが人の国を治めるわけにはいかず、というより森の治安を治めているので暇じゃないはずだ。

 前率いていた軍の部下はキリアの上に立とうとする者もいないし、もとより全くと言っていいほどトレーニング馬鹿である。

 王宮の使用人は使用人の器だ。

 キリアはより椅子に体重をかけてため息をこぼした。


     *


「それじゃあ行ってくる間、よろしくお願いします」

「ああ、よい報告を期待している」

 キリアは車に乗って隣国へ向けて出立した。


 車に乗って数十分で隣国への関門へついた。兵士のような人物が車へ近寄ってくる。

「すまぬが、これより先はこの乗り物での入国を禁止する」

 運転手はその代わりに馬車を準備するようにと告げた。怪訝な顔をした兵士にキリアの名を出すと、素早く敬礼をして馬車の手配にかかった。

 数分とせずに馬車は到着し、キリアはそれに乗り換えた。


 入国して馬車は静かに進んでいく。キリアは外を眺めながら、国の様子を見る。隣国だというのに街の風景は全く違う。服は一昔前のドレスや綿の生地の服。街も煉瓦造りが主流のようで、懐かしいような光景だ。ドリシアル王国では科学が進歩し、機械が闊歩している。しかしここにはそういった類のものが無い。

 人の中には主婦、子ども、働く男たちがそれぞれの行動をしている。商人もいるし芸人もいる。その中に目を引く者たちがいた。やつれた顔に、ぼさぼさの髪、皆一様に白く汚れた服を着て、手首に異様な輪がついている。

 ――あれが、奴隷。

 ドリシアル王国で言う補助ロボットのようなものだろう。しかしあくまで補助ロボットは自己を持たない機械だ。ここでは人がその役割を担っている。

 キリアはそれでも何の感情も抱かない。普通に仕事だと思っていたのだ、この時は。


 しばらくして馬車が大きな塀を通った。おそらく城内に入ったのだろう。大きな庭を横目に見ていると、馬車がすぐに停止した。

「着きました」

 城は大きかった。ドリシアル王国の王宮の倍はありそうだ。キリアはその大きさに気圧されながらも、短く息を吐いて気合を入れた。


 城の外装も凄かったものの、内装も凄かった。壁のいたるところに金の装飾。その装飾も非常に細かい凹凸がデザインされている。

 すでに他国の力を見せつけられているようだ。

 ――シアナなら動じないのかな。

 少し思考を逸らしてみて考えてみたものの、見るからにあたふたしているシアナが思い浮かんだ。それを見て冷静でいようとする自分がわかる。

 キリアは心の中で苦笑した。

「こちらです」

 使用人が手を出した先にはとても大きく荘厳な扉があった。すでにキリアは帰りたくなっていた。とりあえず、国が豊かになったら少しだけ王宮を改造しようと思いつつ。


「お待ちしていました。キリア殿」

 そこにはふくよかな体型の中年の男性が大きな椅子に座っていた。脇には兵士が二名。 キリアは足を動かして、男性の前に跪く。

「このたびはお目通りかないまして、ありがどうございました」

「構わんよ」

 キリアは立ち上がって、顔をしっかりと向ける。

「なかなかに若い顔をしている。歳はいくつだ」

「歳は三十六です」

 キリアはアンドロイドだ。脳の歳は増えるものの体は歳をとらない。案の定、男性は怪訝な顔をした。

「おう、そうだ。私がこのアドル王国の国王サモンだ」

 いきなりの自己紹介に困惑しつつ、キリアは頭を下げた。

「今回は貿易の件でお話がありまして参上いたしました。我々の国では鎖国を行ってきましたが、王族が王権を無くした今、国は衰退していく一方です。この際、我々は他国と貿易をしたいと思っている所存。そこで隣国であるこの国に応援を頼んだしだい。加えてこの国の成功したという貿易の方法をぜひ教えていただきたいのです」

 サモンは静かに聞いていた。そしてすぐにこう切り出した。

「そなたの国では何を貿易の要とする? それしだいでは考えようではないか」

「機械科学。これはこの国にもないでしょう。そしてそれが国の大きな力です」

「機械科学……とはなんだ?」

 キリアは自分の腕を外して見せた。サモンは当然驚いた表情を見せる。

「私はアンドロイドです。まあ脳は人間のままなんですけれど。こうやって体なら機械にして無くす前の様に動かすことができる」

 キリアは腕を元に戻した。

「これ以外にもロボット技術や医学や化学もうちでは発展しています。それは他の国には無いはずです」

「なるほど。実に興味深い技術だ。では逆に貿易でこちらの国の何が欲しいのか」

 サモンはひげを撫でる。

「それは生肉や木材、野菜、新鮮な魚です。こちらは機械科学が発展して、そういったものが少なく希少価値です。それが取引できれば私たちは潤うでしょう」

 サモンは再度ひげを撫で、やがて笑顔を浮かべた。

「よし、取引しようではないか! それではいつだ? いつからしよう」

 思いのほかすぐに承諾が取れ、キリアは気圧される。

「それが、あの、今すぐにとはいかず……」

 キリアはサモンに国の事情を話した。派閥ができていること。王がいないこと。王を決める選挙があること。

 サモンは再びひげを撫で、キリアに協力することを約束した。

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