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運命と罪  作者: 愛姫
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カルト・サジャストン

 カルト・サジャストンの朝は日の出とともに来る。家の窓から差し込む日の光を感じて、カルトは目を覚ます。

 ベットから降りると洗面所に向かう。

 顔を洗ったあと、台所に行き、あくびをしながら朝食を作り出す。

 作り終えると一人席に着き、合掌をして食べ始める。

 食べ終わると食器をもって立ち上がり、流し台で皿を洗う。

 洗い終えると寝室に戻り、服を着る。

 仕事道具を腰につけ、家を出る。


「おお、カルト!」

 街の中で、工事中の看板の前に立つ男に声をかけられ、カルトは手をあげた。

「おはようございます。今日は?」

「昨日の続きをそのままやってくれ」

「うす」

 カルトは軽く返事をして、自分の仕事へと向かった。

 カルトの仕事は建設業だ。家の建設、施設の建設、橋の建設、モニュメントの建設。幅広い建設がカルトたち建築家の仕事だ。

 体格のいい男たちがそろっているのだが、中でもカルトは小さく、細い。それでも他に引けをとらない力、かつ丁寧さが、ボスのお気に入りの理由だった。

 カルトは柱になる木を二本担いで、指定の場所へ歩いていると、

「カルトー! ちょっと手伝ってくれ!」

 カルトは短く返事をして、木を指定の場所に置くと、呼ばれた方に歩いていく。

「何ですか?」

「ここの釘を打っといてくれないか? ちょっと俺には小さすぎる」

 言われた場所は確かに小さく、なかなかの正確さが必要とされる。

「了解。じゃあ、あっちに柱運んどいたんで、その続きをしといてください」

 さっき運んでいた柱を指さして、そういうと、男はうなずいてそちらへ回った。

 カルトはネジを数本咥えて印のついた場所へ打ち付けていく。

 さして時間もかからず終え、元の仕事の方へ戻る。

「もう終わったのか。さすがはやいな」

 男はカルトの肩をたたくと、元の仕事場へ戻った。柱を削り出す作業をしていいたようだが、半分も終わっていなかったので、カルトはその続きから行うことにした。


「休憩時間だー!」

 その声にまばらに男が仕事を置いて、建築途中の建物から出てくる。

「お疲れさまでーす。差し入れでーす」

 女たちがそれぞれの手にご飯やおかずを持って、男たちへ配っていく。

「はい。カルトさんっ」

 それぞれの女性にご飯ををもらって、カルトは水を飲んだ。

 街はいつも賑やかだ。商店が建ち並び、そこには国民が和気藹々と団らんし、買い物を楽しんでいる。だがそこに映るのは笑顔の者達だけでなく、死人のような顔をした奴隷もちらほらといる。

 一見して賑やかな街だが、この街は奴隷がいることで成り立っている。もちろん、普通に職業として労働をしている者もいるが、奴隷とは全然扱いが違う。奴隷は人として扱われない。失敗すればひどい暴力を受ける。

 それがこの街の日常生活。故に誰も疑問に持たず、故に豊かに見える。

 カルトは瞬きをして最後の一滴を飲み干し、女たちに礼をいうと、軽く体を動かして仕事に戻った。


     *


 雨の降りしきる中、煌々と燃える一軒家があった。

 その家の前に涙か雨かわからないほど顔を濡らした少年が一人の男を見上げていた。

「坊主、名は?」

「……」

「奴隷になるか、俺たちのファミリーになるか、選べ」

 少年はただ男を見つめていた。


     *


 夕日の沈むころ、カルトたちの仕事は終わる。

 それぞれ挨拶もほどほどに家を目指し帰路に就く。

 カルトは家に行く前にいつも寄るところがある。それはある時から決められたことである。

 帰り道の森の中、道を避けて、道なき道を迷わずに進む。幼少期から歩いてきたその道はけもの道の様に草木がよけている。


 日が完全に沈んだころ、ようやく一軒家が見えてきた。

 カルトはその一軒家のドアに三回ノックし、変わったリズムで二回ノックした。するとゆっくりドアが開き、隙間から帽子とマントを着た男がちらりとカルトを見た。そしてすぐにドアをしっかりと開いた。

「お疲れ、カルト。お前宛に何件か依頼が来てる」

 カルトはうなずくと家に入った。


 部屋の奥へ進むと、大きな椅子に座った厳つい顔をした男がカルトを見た。

「カルトか」

 カルトは男の前まで無言で歩いていく。

 男は懐からマッチと葉巻を取り出し、火をつけ、口にくわえた。煙を立たせながら数枚の書類を取り出し、カルトに渡した。

「これだけ依頼が来ている。お前もなかなかできるようになってきたからな。指名も多い」

 カルトはさっと目を通し、内容を持ち帰った。

「やれるだけでいいぞ。さして必要性があるとも思えなかったからなー」

 男は煙草をふかしながらカルトに告げると、カルトは小さくうなずいた。


 幼少期、育ての親を何者かに殺され、家を燃やされ、行き場を無くしたカルトの前に現れたのがこの男だった。名は明かさない。ボスとしか名乗らないその男にカルトは縋りついた。

 生きていく術を教えられ、協力することを求められた。

 協力というのも盗賊としての仕事だった。金品を盗み、自分の糧とし、生活していく。ただそれだけ。

 カルトは以前一人の盗賊仲間に聞いたことがある。

「ボスは何も言わんがただ盗賊をしてるわけじゃない。そうしなければならない事情があるんだ。お前もいつか聞かしてもらえるさ」

 もちろんそのことについて、ボスに直接質問したことがあるが、飄々とかわされた。

 今はおとなしく仕事をしているが、いつかその話を聞けることを期待している。


 カルトはいったん家に帰り、腹ごしらえをし、盗賊用の服に着替えた。カルトは髪が赤い。故に暗闇でも目立ってしまうので、髪は完全に隠してしまわなければならない。鏡でしっかり確認した後、道具を持って外に出た。

 自然にかつ素早く目的地へ進んでいく。そして辿り着くと兵の配備を確認して悠々と警備をかいくぐっていった。いつものことだが、城にしては警備が緩いとカルトは思いながら黙々と目的の場所に行った。一か所の窓ガラスの前に立つと、軽くコンコンコンとノックした。

 しばらくするとカーテンが開けられて、一人の女性が顔を出した。

 女性の名はルル・アドルジャン。このアドル王国の王妃だ。

 カルトは手でグー・パー・グー・パーとし、次に人差し指と親指を立てた。

 ルルは納得して、窓を開けた。

 カルトは音もなく窓のサッシに飛び乗り、小袋を渡した。

「サファイア?」

 ルルの問いかけにカルトはうなずいた。

 ルルは嬉しそうに受け取る。

 小袋の中から出てきたのは、サファイアを加工した耳飾りだ。サファイアは華族から盗んだもので、ルルからの費用で耳飾りに加工した。

「あなたもすごいわね。もう少し時間がかかると思ったんだけど」

 カルトは答えない。必要事項のみを喋る。それが鉄則だ。声を覚えられることも配慮しなければならない。

「またお願いしていいかしら?」

 ルルから一枚の紙が渡される。カルトは受け取りサッと目を通すとすぐに燃やした。

「もう覚えたの?」

 カルトはうなずいて、

「一週間後、約束のものを」

 とだけ告げ、窓から飛び降りた。

 ルルは音もなく自然と帰っていくカルトを見送った。


 カルトと出会ったのは一か月前。城に保管されていた『勾玉』というものを盗み出す際、カルトの不注意でばったりとルルに鉢合わせてしまった。今にも叫ぼうとしたルルを抑え込んだところで兵が来た。サッと物陰に隠れたのだが、その時にルルはカルトに恋をしてしまった。黒い服の隙間から見えた、エメラルドのような澄んだ緑の瞳に目を奪われた。

 それ以来、カルトに会うためにカルトへ依頼を送るようになった。正直言えば、一国の王女であるから、宝石なんていくらでも買えるほどの財産はある。それでもカルトに会いたいがために盗みを依頼するのだ。




 カルトは自宅に帰って、ベットの上で今日、報酬で貰ったコインを弾いては掴み、弾いては掴み、明日からどう動こうかと計画を立てていた。最後に一番高くコインを弾いて掴み、明かりを消した。

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