〜ハートレスラブ無しコメディ〜 【女医 四之腹佐乃 哀の病院日誌】
【女医 四之腹佐乃 哀の病院日誌】 #5 代理母 オトナになるということは
【佐乃っちゃん vs 代理 母】
小児科医、四之腹佐乃の前にリストが突き出された。
佐乃はリストを受け取り目を通した。普段以上にギロッ、と目ヂカラの強い目で目を通した。
「症状リスト? 発症している症状の一覧」
目の前でツン、とそっぽ向いている11歳の少女は佐乃の診察室でひとことも語らないつもりらしい。
相変わらず、と言っていいほど、小児科医として子供とシックリいい関係を作れない佐乃であったが。
「まあ、手間が省けていいけどね」
だが、リストを読み続けるにつれ、佐乃の顔はこわばっていった。
「なに、『性交渉ののち、下腹部に違和感』⁈ 」
まさか、この歳で⁈
いや現代ならばあり得るのかも。
だとしたら、あたしが口に出せないこの子の心のヒダに優しく触れてやらねばならんのか。
医師とし、ひとりのオトナとして。
左乃の眉間にあり得ないほどの顔筋が隆起し、まゆとまぶたが生き物のように波打っていた。
日頃、ビームが出るんじゃないか、と子供からからかわれるほど目ヂカラに溢れた佐乃の瞳が良識あるオトナの決意の炎でさらにニラニラ輝いた。
音が聞こえそうなほど、力強い眼差しを少女に投げかけた。
すると、
「うわあーん、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。ママがどーしても薬だけもらってこいって。自分じゃいけなからって。こわい‥‥‥もうしないから」
「へっ、じゃ、キミ、お母さんの代理?」
つか、あたしってそんなに怖い⁈
ここに至っても、なかなかいい関係が作れない小児科医 佐乃であった。
でも、
「というか、そんな要件で小児科来るな」とは言わなかった佐乃であった。