お花
早く目覚める。今日から俺は社会人だ。けしてニートではない。ネオニートだ。
身支度を整え朝食の場へ
家族に宣言せねばならない。
「おはよう、今日は早いのね」
母親だ、息子が一人で起きれたのが嬉しいようだ。
家族が囲むテーブルへ俺も座る。
「おはよう、お父さん、お母さん、今日から俺は学校へ行かないよ」
単刀直入に切り出す。叱られた場合は家も出よう。まさに不退転の決意だ。
「それで働くのか?」
父さんが聞いてくる。落ち着いた声と表情だ。
俺は競馬で稼いだ60万円を置く。
「このお金は?」
「稼いだんだ、自分の力でね」
「ほう」
父親は少し驚いているようだ。
「お父さん、俺は株で稼ぐよ。」
「株?」
奈津美が首をかしげてる。
「株なんてなかなか勝てないぞ」
父親が言う。諭すような声だ。
父親自身も株をやっているので、経験からの言葉だろう。
「家にはどんな事をしても月に5万円は入れるよ。見通しが甘く儲ける事が出来なかったらバイトしてでも入れる。だから証券口座を1つ使わせて下さい」
父親は何個か証券口座を持っている。その一つを使わせてもらおう。
「お父さんの口座をか?」
「はい、使っていない口座を」
父親は少し考える。
「お父さんと同じ証券会社なら、未成年の淳平も口座を作れるぞ」
それは知らなかった。
「じゃあ、俺も口座を作るよ」
父親は少し考えてまた言う。
「お父さんも淳平が働くのは構わない。学校を卒業したとしても本人にやる気が無ければ、何も意味がないと思うからだ。ただもう高校生活は送れないぞ。本当にそれで良いんだな?」
高校生活=楽しい。そう思って、心配してくれているのだろう。
俺は、高校生活を思い出す。バラ色の高校生活ならば惜しいが、特にそうではない。今までは普通であったが、今は苦痛だ。
「はい。もう、高校には戻りません」
俺は宣言した。そして朝の食事の時間が始まる。
「淳平」
母親が話しかけて来た
「何?」
「無理せず、こつこつ稼ぐのよ、あと株をやるのなら絶対に情報を仕入れなきゃダメよ。株には、ほぼ確実に値段が下がる時期や上がる時期があるわ。そんな基本的な事を知らずに、株の世界に飛び込むなんて、カモがネギ背負って歩いているようなものよ」
「カモネギ」
奈津美が笑っている。
「大丈夫だよお母さん。俺には才能があると思うんだ」
「まあ、淳平ったら」
母親はやれやれと言った表情だ。でも駄目とは言わない。この人は子供にはやらせてみようスタンスの人だからだ。
食べ終わり。パソコンのある部屋に行く。母親からは、お仕事頑張ってね、と言われる。ついでにマネして奈津美からも言われた。
さて、まずは、自分用の口座を申し込む。
そして、父親にお金を渡しているので、父親の口座のお金を使って、株取引開始だ。
『ほう、淳平よ』
「何だい」
『ふむ、これが、日本国公認賭博場か』
「賭博?」
『ああ、日本はギャンブルは基本禁止しているが、株式市場は、上がるか下がるかの2択に掛ける鉄火場だ。楽しむが良い』
「分かったよ。でも俺の行動によって未来は変わるんだよな?」
『ああそうだ』
「じゃあ、上がると【未来視】で見た銘柄が、俺が買った為に下がる、って事も起こるんだよな?」
『ほう、そこに気づいたか、淳平よ。賢いぞ。下がった株を買い、うなだれる淳平に、神の声を授けようとしていたのに、無駄になったな』
「悪魔の間違いだろ」
『ふふ、どちらでも我はかまわない。人智の及ばない存在であるという事に変わりは無いからだ!』
「はいはい、それはどうでもいいよ。話を戻すけど、俺が銘柄を買った後に、また【未来視】で見れば、結果は分かるよな?」
『そうなるな』
話はついた。俺は未来視で上がる銘柄を確認し、上がり切った所で、買った株を売っていく。
単純作業だ。まだ俺の金額が小さいせいか、全部の取引は俺が参戦しても結果は変わらなかった。
取引を確定する度に利益が増えていく。
それを繰り返す。単純作業だ。
刺身の上に、お花を乗せるようなものだ。
「1日で、30万稼いだな」
『ふむ、乱高下する銘柄に乗り込んで、見事に乗りこなしていたな。周りから見たら、荒波を乗りこなす天才児だったな』
「誰も見てないけどね」
午後三時に取引は終わる。
母親に報告しよう
「お母さん、30万円稼いだよ」
「まあ、淳平ほんと?」
俺は収支画面を見せる
「あら、本当だわ。淳平って天才かもね。でも気を付けるのよ。気を張って体調も崩さないようにね」
「大丈夫だよ、母さん」
本当にね、ただの単純作ですから。
お花を乗せる程の集中しかしていません。