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サキヨミ  作者: ドヨ破竹
2/6

眼が痒い

公園でのふて寝から目覚めて俺は学校に行く。病院に行ってから来たという事にしよう。休み時間を狙って教室に入る。


「あら、おはよ、どうしたの?」

隣の席の佐藤由香里だ。長い髪の、すらっとした女の子だ。可愛くなくも無い。普通の人だ。

「ん、病院に行ってたんだ。チョット体調が悪くてね」


前島彩の事を考えると、涙がかってに出てくるのだ。体調はとても良いとは言えない。


「ふーん、お大事に」

「ああ、ありがとう」


俺は席に着く。教室を眺めると自然と前島彩に眼が行く。彼女は楽しそうに友達と話をしている。俺の事などまったく気にしてはいないのだろう。会話の内容が俺の事を笑っていない事を祈るしかない。ああ、憂鬱である。


(なあ、自称神様)

『なんだ淳平よ』

(うおっ、心の中も読めるのか?)

『淳平が念じればな。普段は聞こえないよ。もちろん分かろうと思えば、分かるが、それでは詰まらないからね。まあ良い、何のようだい?』

(人の会話の内容は聞こえないのか)

『彼女達のそばに行けば聞こえるよ』

(そうじゃない!)

『ふふ、分かっているさ、冗談さ。さて、会話内容だね。残念だけどそれは分からないね。彼女の未来を見て推測するのは出来るかも知れないけど、普段の会話と未来とはそれ程関係無い場合が多いからね』

(そうか)



そう思い俺はやることも無いので、教科書を開く。授業の予習だ。やる気がある訳ではない。ただ文字を眺めているだけだ、全然頭には入っていない。



『前島彩の未来は見ないのかい?』

(うるさいな、見ないよ。見てもしょうがないだろ)

『ふふ、そうかい。前島彩の未来に自分がいないのを見てショックを受けるのが嫌かい』

(お前、嫌なヤツだな)



俺は勉強のやる気がゼロになる、もともと極微量だったが。



『ああ淳平、すまないね。気を悪くしないでおくれ。まあ見たく無いものは見ない方が良い。君の自由さ』



自称神の言葉を聞き流し、俺は机にうっぷし目を閉じる。授業が始まる。俺は半分寝ながら授業を聞いた。何も頭には入らなかった。

授業が終わる。はー疲れた。


「今日は全然やる気ないね」


隣の佐藤由香里が話かけてきた。


「うんまあね」

「ひょっとして前島さんが隼人君と付き合ってるって知っちゃった?」

「え?」

「あれ?知らなかった?それでやる気が出ないと思ったけど」


石川隼人は違うクラスの同学年、そしてイケメンな男だ。そうか前島さんは付き合ってる男がいたのか。いや、そりゃいるよな。あんなに可愛いんだから。はあ佐藤さん、その情報をもっと前に教えてくれたら俺はこんなに落ち込む事は無かったのに。

うう、いかん、また涙が出そうだ。ちょっと具合が悪いと言って俺は席を立った


「チョット大丈夫?」

「ああ、ありがとう。俺早退するわ」

「ふうん、やっぱりショックだったんじゃないの?」


俺は苦笑いを浮かべつつ教室を出た。そのまま学校も出て適当に時間を潰し、家に帰る。


『淳平よ』

「なんだ自称神様」

『泣きながら歩くのは面白いが、みっともないぞ』

「止め方が分からない」

『ははは、ならば存分に泣くが良い』

「ああ」


俺は半分やけっぱちになり歩き続けた。通行人は多少俺を見るが、誰も気にも止めない。他人の事は関係ないのだろう。

家に帰る頃には涙は止まっていたが、目は赤いであろう。ひとまず自分の部屋に行く。


「はあ、もう学校に行きたくないな」

『ん?淳平よ、何を言っているのだ?』

「なんだよ自称神様、あーもうめんどくさいからジョーって呼ぶわ」

『ほう、名前を付けてくれたか。ジョーか悪くないな』

「名前の由来は聞かないのか」

『興味はないな』


自称→ジショウ→ジョーだ。由来と言うほど意味はない。


「ところで、何を言っているって何だよ」

『ああ、淳平は学校なんて行かなくて良いのだぞ』

「何を言ってるんだ、ダメだろ」

『なぜ?』

「なぜって…学費払ってるから?」

『ふむ、ならば払わなければ良い』

「いやいや、じゃあ、学校行かなきゃ働かなきゃいけないだろ」

『なぜ?』

「それは…働かざるもの食うべからずってやつだよ」


そもそもニートなんて恰好悪くてなれない。


『ふふ、殊勝な心掛けだな淳平よ。だが全く無意味な心掛けでもある。良いか淳平よ。何か目的があって学校に行っているならともかく、特に目的が無いならば学校なぞ、人生の浪費、人間にとっての貴重な時間の無駄であるぞ』

「そんな事は分かっているよ」

『いや、淳平は分かっていない。分かっていないからまだ学校に行こうとしているのだ』

「いや介護士になるって目的があるし」

『ははは、淳平、冗談はよせ。君は本当は介護士になんてなりたくはないだろう?ずっと一生、老人の世話をしたいのかい?本当に?本当だとしたら驚きだが。人間の精神の進化はここまで来たかと、テレサも喜ぶんでいるだろう』


テレサって誰だよ…マザーテレサか?


『では、本題に戻ろうか。淳平よ、君が就職を目指すのは、生活する為にお金を稼ぐ為だ。その為に学校に行っている。それで間違いないな』

「ん、ああ。そうだな」

『逆に考えれば、お金さえあれば君は働かなくて良いし、学校にも行く必要がない。ここまで理解出来るだろうか』

「それはそうだけど…そんな事で良いのか?」

『ああいいぞ。もともと金持ちは働いていないからな。趣味で働いている人が多いぞ。もっと言えば金を持っているのに介護士をしている人はほとんどいない。ああ、もちろん経営者は別だぞ。彼らは介護士という労働者ではなくオーナーだからな』

「ん?ああ、なんとなく分かるが…」

『長くなったが結論をまとめると、【金があれば学校に行く必要もなく、働く必要もない】という事だ』

「そんな事は分かっている」

『ふむ、分かっているか、では明日から淳平は何をするのだ?』


何って…なんだ?


『ほら、分かってないな。淳平よ。淳平のやる事は【金を稼ぐ】という事だ。働く必要もなく、学校に行く必要もない程度には稼ぐべきなのだ。そうしないと時間を浪費するだけだぞ。まったくつまらない人生になる』

「でもどうやってお金を稼ぐんだ?」

『ははは、まったく淳平は可愛らしいな。そんな世界を制すチカラをやったと言うのに、金も稼げないのか?方法はそれこそ無限にあるぞ』

「競馬とかか、いやあれは二十歳からか」

『ふむ競馬か、馬の雄大さは見ていて心地良いな。悪くないぞ淳平よ』

「でも二十歳からじゃなきゃダメだろ」

『ふむ、その通りだが、二十歳以上の人間に買ってもらえば良いだけだぞ淳平よ』

「!!、そうか、いやそれくらい、分かってるさ」

『だが、それはあまりお勧めしない。何故か分かるかな?』

「…俺の能力がバレるからか?」

『ふふ、そうだ。ことごとく馬券を当てる男など、異様だ。付きまとわれるぞ。やっと頭が回るようになってきたか』

「そんなの普通だろ」

『まったく普通だな。まあもっと言えば別に二十歳未満で買ってもバレなければ問題は無い。馬券購入も払い戻しも今や自動販売機で行われている。大勢でバカ騒ぎでもしてない限り、声もかけられないだろう。仮にバレたとしてもそれが何だと言うのだ。注意されて終わりだろう。命まで取られる訳ではない。まずはやって見れば良いのだ』

「確かにそうだな。しかしジョー。お前なんで、競馬に詳しいんだ?」

『ふふ、我は全知全能の神だからだ』

「はいはい」



夕飯を食べに部屋を出る。

奈津美は寝転がってテレビを見ていた。

俺を見て、何かを発見したのか、ニヤニヤしながら話しかけてきた


「あ、お兄ちゃん目があかーい。泣いてたの?」

「ん、痒いから掻いただけ」

「ふーん」


俺は強い兄貴なのだ。妹に弱味を見せる気はない。見栄っ張りでもある。


明日は競馬場に行こう。俺は心に決め、眼を瞑り、黙々と夕飯を食べた。あー眼が痒い。


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