自称神様降臨
「好きです。付き合って下さい!」
「えーと、ごめんなさい!」
高校一年の春、俺の人生は終わった。
高校で一目惚れしていた前島彩に振られた。
前島彩は高校で初めて出会った人で、
目のはっきりした美人だ。スタイルもよく、胸も大きい。
性格も明るく、クラスの人気ものだ。
俺、松井淳平は顔は中の下、特技もなく、成績も普通だ。
そんな、つり合いもしないと思っていたが、恋は盲目とはよく言ったものだ。
彼女が誰にでも振りまく、愛想にやられ、自分に好意を寄せていると勘違いして
勇気を振り絞って告白し、振られ、人生が終わってしまった。
もう高校には行きたくない。家で寝ていよう。
「淳平!いつまで寝てるの!早く起きなさい」
寝ていたら母親が二階の俺の部屋にやってきた。毎日俺を起こしてくれる。遅刻しなくて良いが、今日は寝ていたいのだ、母よ。
俺は狸寝入りを続ける。
「ほら!早く起きる!」
「痛っ!」
本当に叩き起こされ、俺はしぶしぶ起きる。
「はい、おはよう、早く起きて来なさい」
「……おはよう」
なぜ学校に行かねばならないのか、それは俺が高校進学を選んだからだ。嫌ならば働けば良いと親は言うだろう。ただ俺は働きたくもないのだ。だから進学した。
用意をして一階の台所に行く。うちは四人家族だ。父と妹はもう朝飯を食べていた。
「お兄ちゃん、おはよう」
「おはよう」
妹は奈津美だ。中学二年だ。反抗期にもならず素直なヤツである。
父は謙太郎。会社員だ。中間管理職に出世してるらしいが詳しくは知らない。
「なんだ、元気ないな」
「……うん」
父親が話かけてきたが、詳しく話す気は無いので、曖昧に返事をして、ご飯を食べる。
今日も味噌汁がうまい。俺は根菜が入っていない味噌汁は味噌汁だとは認めていない。その点、母親の味噌汁はニンジン、ジャガイモと入っており、とても満足している。母親には言わないが。
「行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
朝飯を食べて、俺は準備をして出かける。
さて学校に行くのはやめてどこに行こうか。
とても学校に行く気にはならない。
思えばこの時学校に行っていれば、俺の人生はいつも通り平凡な毎日を過ごせただろう。
俺は公園に来た。ここには何人かのホームレスが住んでいる。彼らは俺みたいな下流の人間でも傷つける事はない。落ち着ける場所だ。俺は芝生の上に横になり、目をつぶった。春風が少し冷たいが、これくらいが今はちょうどいい。
何も良いことが無い人生だった。彼女にモテなかっただけだが、それでも本気だったのだ。俺は少し泣いて、また眠った。
『こんにちは』
まどろみの中、目覚める。誰かが話しかけてきたのだろうか。近場を見るが、自分の周りには誰もいない。
『こんにちは』
はっきり聞こえる。どこだ。
「誰ですか?どこにいます?」
俺は問いかける。
『君の中にいるよ』
「俺の中に?何を言っている?」
『だから、君の中さ、姿は見えないよ』
「幽霊!?」
『ははは、僕は死んでないよ』
「じゃあなんだ?」
『まあ、君達風に分かりやすく言えば、神様だね』
「神様?何を言ってるんだ。てか、何で聞こえる、幻聴か?訳が分からない」
『じゃあ悪魔って言えばわかるかな。天使でもいいよ。アッラーでもキリストでも構わない、唯一神でもガブリエルでも好きなように呼んでくれよ』
胡散臭い、てか何で聞こえる。なんだこれは?
「なんでも良いけど出て行ってくれないか?俺は今、忙しいんだ」
『あれ、意外と冷静だね。少しは泣き喚いてもいいよ。さっきみたいに振られた感傷に浸ってさ』
なにっ!
「この野郎!良いからさっさと出ていけよ!むしろ姿を現せ!」
『ははは、元気がいいねえ。まあ仲良くやろうよ。僕は姿が見せれない。君の中にいるだけさ。ちょっと声が聞こえるくらい大した問題じゃない。からかったりもしないさ。悪かったよ』
「よく分からないが、何が目的だ?どうして俺の中にいる?」
『ふふふ、実はずっと昔から淳平君を見守ってきたのさ。君は選ばれたんだ』
「うそをつくな!」
『ははは、そう嘘だよ、さっき君が寝ている時に、君の中に入ったのさ。君があまりにも不憫でね。まあ選ばれたってのは少し本当かな』
「何が目的なんだ?」
『同じ質問を返そうか、君は何が目的で生きてるんだ?』
「なっ!?」
『特にないだろう、つまり、僕の目的も特にはない、強いていうなら暇つぶしが一番合うけど。納得してくれるかな?』
「俺で暇つぶしをするな!」
『ははは、もっともだね。じゃあ淳平君に一つチカラをあげよう。家賃みたいなものだと思ってくれて構わない。それは【未来視】だ。未来を見ようと思えば、未来が見えるよ。そして見える未来は変えられる。こんなチカラを持っている人間はめったにいないよ』
「何を言ってるんだ、がああ、痛!」
左目に激痛が走る、どんどん熱くなる。
「あああああ熱い!」
うずくまって暫く、もがいていると、痛みと熱が引いてきた。
「うぅぅ、痛かった、この野郎なんて事を!」
返事がない。
「おい!なんとか言え!」
返事がない。何なんだ一体。未来が見えるとか言っていたが。言う事を聞くのも癪だが、そう言われると使ってみたくなってしまう。漫画みたいなチカラだな。えーと、未来を見ようと思えばいいのか。よし、未来を見る!
そう思ったら、左目の景色が歪み、色彩が無くなる。モノクロトーンの景色の中で、ホームレスのかっこうをした父親がいた。ごみ箱を漁っている。はは、何をやっているんだ親父は。そうして親父と目があう。目が合うと分かる。あいつは親父ではない。歳をとった俺だった。
「うわ!」
『ははは、未来はホームレスだったね』
「なんだお前!どこにいた!?」
『うん?ずっと君の中にいたさ』
「何で話かけても無視する?」
『そんなの僕のかってだろ。…なんてね。未来視を使ってもらうまでは黙ってようと思ってたのさ。僕が神様だと信じてもらう為にね。信じただろう?』
「あんなのが未来だなんて、信じられるか!」
『君の未来の事じゃなくて、僕の存在の事だよ』
「そんな事はどうでもいい!」
『ははは、それもそうだ。どうでも良い事だよ。さっきも言ったけど。この未来は【変えられる】。変えられる未来なんて、全くどうでも良いことだ』
未来が変えられると聞いて少し落ち着いてきた。
「それでお前は何なんだ」
『神様だよ。名前は無い。好きに呼んでくれたまえ』
俺はまた寝転がった。意味不明な展開だったが不覚にも少しドキドキしていた。