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第七話 出迎え

「あー、熱いですね。ワゴンさん」

「そうだね、ライオくん。そうだ、君は最近ここに来たんだ」

「そうですよ、困ったな、ハハハ」

「笑うことかい? ま、無理もないだろう。ここは財宝を夢見る男たちのロマンなシティーだからね。訳アリが多いのさ」


えー、見ての通りキザな相手と荒野にいます。


どうしてこうなったかというと、ドレファー店長の頼み事にありました。

それは朝のこと。


「えっ、出迎え?」

「そうだ。名前をサアシャといって、お前と同年代のハーフエルフだ。料理ができる」

「俺が行って、分かります?」

「一人の同行者がいる。それと行ってきて、彼女と食材を連れて帰ってほしい」


料理の腕は確かで、皆からは料理長と呼ばれているらしい。

そして待合をしているのはダンジョン周辺の荒れ地。

ダンジョンの近くには珍しい食べ物が多いから、彼女をよく狩りにいかせていると聞いた。


「いや、君も苦労するね。相手があのモンキー、サアシャなんて」

「サル?」

「外見じゃないさ、中身よ。扱いを間違えると噛まれるぜ」


手で首を切るフリをして、二ィと笑う。ワゴンは人間だ。


「それにしても……車なんてあるんですね」


考えもしなかった。地球にあるような車がこの世界にあるだなんて……。

実際、いま俺たちもタイヤの大きいランドクルーザーよりの車に乗っている。


「魔族にはいらないんじゃない? 人間には生命力がないから」

「あ、たびたび出てくる生命力とか、我が命とか、なんなんです?」


この質問には肩に乗るスライムが答えた。


「命の力だよ。これを使って魔法を出したり、腕力をあげたりする」

「おやおや、君のお母さんは何も教えてくれなかったのかい?」


ミスターワゴンがウインクをしながら訊いてくる。


「この車だって、植物の命を使っている。生命力は魔力とも呼ぶね」

「植物! やさしいな」

「やさしい? これのどこが優しんだ! 皮肉だぜ。おかげで俺たち、今、食われそうになっているんじゃないか!」


もう、そんな脅しなんてしちゃってよぉ――ワゴンはなかなかワイルドだなー。

服装もカウボーイで、似合っているよ――うん。


「って! なんだこりゃ!!」


後ろを見てみろ。黒い鳥のような群れが俺たちからくっついて離れねぇぞ。

鳥なのに鎧のような鱗が張り付いている。

ありゃ、恐竜かな――って、なんでいるの?


「ナイス反応。でもこいつらの餌はこの荒れ野全域さ。俺たち だけ じゃない」

「いや、入ってるよね!? その食われるメンバーに俺たちが含まれてるよね、ねぇ!!」

「まあ、よせ。日常だ」


冷静じゃねえし。こいつ、冷静じゃねえし。

カウボーイハットの中のアフロから汗、大量に滴り落ちてるからな?


「これはよくあることだ。怖いのはこれからだよ」


そう言って青いハンカチを取り出すワゴン。汗を――拭いた。


「落ち着くな! 澄ますなぁぁ!! ……?」


次の瞬間――


黒い何かが車の横を通り過ぎていた。

速すぎて、捉えられた気がしない。それでも何かが放たれたのだ。

俺たちの前から……。


反射的に後ろへ振り返る。

するとそこには悲鳴を上げて去る怪物たちの姿があった。

どの魔物も、黒い鼻から赤い血を噴出させている。遠くても分かった。

あの通り過ぎた黒い何かの仕業だ。


「驚いたかい? これが状態異常の力さ」

「は?」


ワゴンが目を細めてドアを開ける。

左右のドアは上へ開くタイプで、地球で言うガルウィングドアだった。

シャーッと心地良い音がする。


「……到着だよ。降りて、相手を探せばいい」


そう言ってドアから飛び降りるワゴン。俺もそれに続いた。


「ん!」


――ひどい土埃だ。


塵を吸うことのないようマントで顔を覆った。

風が止むと同時に、前へ向く。


するとそこに彼女はいた。


「遅いんじゃない?」


それは長いもみあげ以外、男みたいな短髪をした少女だった。

短い銀の髪を風にそよがせながら、華奢な少女は口をとがらしている。

端麗なその顔は――好みだった。


「おまけに死に損なったようね。あたしがいなきゃ」

「ハハ、悪かったね料理長――」


彼女が料理長……。想像以上に野生的だな。


そんなことを考えていると、ほら、目が合うんだよ。彼女の瞳は綺麗なエメラルドだ。


「誰?」

「新しい店員だよ。君と同じ入居者だ」

「ふぅん」


彼女が狩ったのだろうか。

隣のトカゲのような巨大生物の山を放り出して、俺のほうへ近づいてくる。

料理長はスタっと立ち止まるとコンガリ色の手を差し出した。


「肩に乗ってるの可愛いね。あたし、サアシャ。一年前から店長のもとで暮らしてる。あんたは?」

「俺は……山田 雷男。昨日からお世話になってます」

「そう」

「オイラはスライム! 主人が名付けたんだぜ」


元気の良い魔物に、サアシャは細い眉をヒョイと上げた。


「ユニークなこと。なんて呼べばいい?」


何かを舐めているようだ。サアシャがほっぺたに丸い膨らみをつくって、そう質問した。

葡萄のような甘い匂いが漂ってくる。


「ライオで」

「わかった。あたいのことは失礼のないように呼んでね」

「私、これでも乙女なの~、男みたいなあだ名はやめてぇってことだ、ハハ!」


腹を抱えたワゴンを黄色いショートブーツで蹴りつける彼女。

これでも手加減はしているようだ。

ワゴンはヘラヘラと笑っている。


「で、サアシャ。他の子たちはどこなんだ?」

「もうすぐ来るよ。それより先に解体を頼める?」

「ああ。今すぐにも」


ワゴンがそう答えてナイフを取り出す。

死んだトカゲをさばくようだ。


「ライオくんも、獲物を仕留めたら僕に言ってくれ。解体には自信がある」

「食い物全般はこの人に聞けばいい。あたいもそこだけは信頼しているよ」

「ひどいな、サアシャ。僕は食べ物以外だって物知りだよ」

「あっそ――」


ワゴンと酒場の繋がりは食べ物にあるということか。

店長とこの人が個人的に仲がいいようには思えない。


「えっと、俺にできることはありますか?」

「あー、こいつには毒がある。素人に触らせるわけにはいかないね」

「そうですか」


自然の流れでサアシャの方へ目がいく。

暇な時間をどう過ごすんだろ?


「サアシャさん……サシャはこれからどうするの?」

「暇」

「……」

「分かった。分かったから。そんな顔されるくらいなら暇に付き合ってあげる」

「ヨオッシャ!」


手に脇汗かくみたいな顔して良かったわー。

あー、マジ助かった。


「さっきの鳥の群れに一匹だけ地面に落ちたのがいたんだ。見に行こ」

「オッケ」


色違いのエルフ同士だもんな。仲良くせんと。


「さっきのは魔法で仕留めたんだよね」

「……トカゲは。鳥はただの脅し」


何といった表情も見せずに彼女は答える。

美しい横顔だ。


「鳥は食べないんだ?」

「食べるけど、今はいらない。それに今の群れには子どもがいた」


チラリと緑の瞳がこちらへ動く。

今思ったけど、彼女は俺より小柄だ。


「それが地面に落ちた。親は飛んでいなくなちゃったみたい」

「もしかして、これから介抱するつもりとか?」

「ううん、死んでいたら無理でしょ。角を貰って、埋める」

「へぇ?」


サシャが言うには、黒い角は高く売れるそうだ。そして、それを狙って魔物を狩るハンターは多い。

魔物も人を好んでいないため、よく襲ってくるらしい。


また厄介なことに魔物は雑食だから、服から何まで飲み込んでしまうとも聞いた。

誤飲誤食が原因で死ぬ魔物もいるようだ。


「案外、高価なものを呑みこんでいたりもしてね。でも、そういうのは早い者勝ちなんだ。見つけた人間が持って帰る」

「すごい野蛮だな」

「ここはアザレアよ。人間界でも聖界でもない。魔界なんだからさ」


そう言ってから、サアシャは前を指差した。

ゴロゴロと岩の多い所に、黒い生き物が横たわっている。

それはドラゴンのような容姿で、浅い息をする度に大きな体が上下に動いていた。

角は二本あって、黒曜石のような輝きがある。


傍らには一台のミニバイクもあった。


「先取りされた」


すでに盗賊かハンターに来られていた。

黒い体の上に、緑色の人影が乗っかっているのが見えた。


巨漢な肉体で、なぜか見覚えのある気がする。


俺たちは人影に近づいた。


「肉が欲しいのか。俺はこいつの咥えていた宝石と角だけで十分よ」


あー、知ってる。

このドスの効いた声は昨日のあの人に違いない。


「「「マーク!」」」


あらら、スライムもいれて三人の声が揃っちゃった。

サアシャが「なんで知ってるのよ」みたいな顔をしてこちらを見ている。


「んあ?」


よく見ればイケメンだったのかもしれない。

濃い顔立ちのトロールが顔をしかめてこちらへ振り返った。


「俺はそんなに有名か?……あれ、どっかで会ったような気もしねえけど。姉ちゃんの隣。誰だ?」


クリームを塗っているから分からないのかな?

俺は絡まれたエルフなんだけど。被害者しか覚えてねえみたいだな。


「こいつは新しい店員。それよりも、獲物をやったのはあたいなんだけど」

「知ってるぜ。状態異常の刃を飛ばすのは姉ちゃん以外いねえからな」


それでも早い者勝ちだ、とマークはこちらを向くことさえしない。

獣の鱗を削ぎ落とした。


さすがに、まだ生きてるんじゃないの? と思ったけど、ピンクの皮膚が見えた時点で俺は突っ込むのをやめた。

どうせここはアザレアだ――でも。


苦しそうにこちらを見てくる、ドラゴンの金の目と目が合ってしまった。

目はなんか山羊によく似てんな。


「感覚はないよ。でも、変なカンジ」


スライムの声だ。

こいつも魔物だから、子ドラゴンに同情しているのかもな。


「……首輪が付いてる! 喋れるかもよ、主人」


ちょんちょんと、手に似せた液体で顔を突いてくる。

ピンポイントだけ突くとか、冷たいわ。


俺もマークのしていることは残酷だと思うけどね。


「コンタクトとってみろよ」

「この状態で?」


確かにそれは失礼だな――と、これは獣じゃねえかい。


首に目をやると、黒い帯に小さな鈴のようなものがくくり付けられているのが見えた。

あれは……?


「――たくっ」


サシャが石ころを蹴って去ろうとしている。

俺もそれに続くべきなのか?


でも――


助けなくていいのか――見殺していいのか?


足は動かなかった。かといって、マークを制する言葉も出てこなかった。


ドラゴンの息は浅い。

もう助けるには遅すぎたのかもしれない。

それでも俺は動物が好きだ。野蛮な世界だからといって、こんなことを許してしまっていいのか?


「ん? ちょっと、熱くねえか」


マークが手を止めている。


説得するなら今だ。

と、思ったその時―― 首にある鈴が、一瞬だけ赤く光って見えた。そして、


「え?」


気がつけば、熱風と炎の世界にいた。

獣の腹から勢いよく出された炎が、俺とマークを包みこんでいたのだ。


「あ、死ぬ――」


もっと早くに動くべきだった。


俺は、殺されてしまう……。


ブクマ、ブクマ――あ、連呼しただけですよ。

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