第三話 重罪人
「で、お前はなんの目的で侵入した?」
ただいま、青い人間、緑色の人間にリンチされています。
いや、尋問でしたね。
――でも考えてみて。
俺を囲んでいるメンツは、青いモフモフ、靴はいたドラゴン、その他火星人なんてやつらだよ。
だから左からいくと、懐かしいね。
クッキーモ○スター(チビ)、ヨッ氏ーがいる訳です。
ほら皆合わせて宇宙人!
人間じゃねえー。どっかの惑星だわ、こりゃ。
「だ・か・ら、なんで入ってきたんだよ? お前のせいで城の結界が壊れちゃったじゃない!」
梅干しのように顔をシワクチャにした火星人が怒ってくる。
なんだか、俺。結界を壊しちゃったみたい。
「結界の修復、誰がするのよ!」
「そうだ、今魔女が城出して人がいないというのに」
家出も城だと城出になるのか。面白い。
でも、困ったな。話が一向に進まない。魔族たちは俺にどう謝罪させるつもりなんだろう。
このまま罪を被されても嫌だし。
「あの、俺。別に魔王城に落ちたかったわけじゃないんですよ。たまたま落ちた先が城の沼だったわけで」
「やだぁ。どうりで臭いのね」
それは関係ねーだろ。
ツッコミをした所でまた別の奴が話しかけてくる。
「えっと? お前の言う所では、お前は人間で、魔界の者に魔王城へ落とされた、だな。笑える話だ」
笑えねーよ。本当の話なんだから。
「黒いローブを着たやつです。マノと名乗っていました。俺は美女に騙されたんです」
「誰が信じるか。お前の話なんて」
「そうよ。時空を歪めて異世界から人を連れてくるなんて荒業、誰もできないわ!」
あちらこちらから非難の声が飛んでくる。
ある者は俺をスパイだと言い張り、ある者はただのバカだと騒いでいた。
こんちくしょう。なんだか勝手に話が進んでやがる。
「これはきっと、魔界とエルフの全面戦争になる火種だ。大魔王様は黙っておられないぞ」
「人間もありうる。最近には勇者と呼ばれる戦士が現れたようで、魔界の征服を企んでいるとか」
「それでエルフを使うのか? 頭をもっと働かせろ」
勘違いされている。
俺は明らかにエルフだと間違えられているんだ。
「ちょっと、待って!」
気づいた時にはもう大声を出していた。
魔界の連中のおしゃべりが止まる。
「俺は人間だ。エルフなんかじゃない」
――そんなバカな。と言いたげな顔を皆がしていた。
それでも俺はちゃんとそれぞれの顔に目を合わせる。目で伝えるべきだ。
言葉を信じてもらえないのなら。
気合を入れたその時。――終わりにせよ、という言葉が耳に飛び込んできた。
もう一度。
「彼を責め立てるのはやめよ」
野太く、力強い声。
それは俺を取り囲む連中とはまた別の場所から聞こえてきた。
「大臣……様」
誰かがそう呟くのと同時に、魔族らが一斉に姿勢を正しだす。
偉いお方なんだろう。
漆黒の外套に身を包んだ黒い人間――ダンディーなダークエルフ――が堂々とした様でこちらへ向かってきた。そしてその血のような赤眼と目があう。
自然に肩に力が入った。
「お前が嘘をついているのか、または正しいのか。それは少しすれば分かることだ」
「まさか大臣様……あの鏡を使われるつもりで?」
「もちろんだ。人類から取り上げたあの聖なる鏡。あれは心を映す」
そう言って長身のダークエルフは立ち止まった。俺の真正面にいたいようだ。
さすが大臣ということか、あまり目立ちはしないが、金と銀の細かい装飾がチラリと下から見えた。
オサレな外套だ。
「それに……今この城にいない者。あれは大魔王さまのお気に入りだったな。しかしあの人間の娘ならできるんじゃないのか? 」
大臣が皆の衆を見渡す。それから再び口を開いた。
「異世界人の召喚」
まさか――という驚きの声があがる。
大臣の言葉にカラフルな魔界人らは動揺しているようだ。
しかしそれも大臣が制した。軽く手を振って注目を集めさせる。
「あれは人間だ。古代に魔界を苦しめたのは人間による異世界人召喚だったはずだ。俺たちに無理なことも、人間……特に魔力の高い魔女はやってのけるかもしれない」
「大臣! それは禁句ですぞ」
「構わん。事実だろう? なに、プライドの高い魔族は過去の傷を綺麗に忘れるとでもいいたいのか?」
「それは……」
異世界人の召喚って勇者の召喚か……なら俺は魔界族による召喚?
嬉しくない。どうせなら人間側が良かったなぁ。
「それで。お前」
突然のお呼ばれだ。何を聞きだすつもりだろう。
俺は黒い大臣を見上げた。
「お前は過去に人間であったとしても――今はエルフだ。心が人間だったとしてもな。誰も人間としてはお前を見てくれやしない」
「え?」
「私が見せてやる。お前の姿を」
そう言って静かに手を上げる大臣。
黒い両手からお盆のような水面が引き延ばせられるように現れた。
これはたぶん光の屈折ってやつだ。
小さい波紋が広がりながら、周りの景色を反射させている。
そして見えたもの。
それは弧を描くようにして広がる部屋の中、金髪碧眼の青年が汚いボロをまとって座り込んでいる様子だった。
血の気が悪くて、今にも倒れそうな風貌をしているが、明らかにこれは漫画の中のエルフだ。
耳が少しだけ長くて、白い――これが俺だというのか。
迷いとともに水面に映る人物もまた眉をひそめていた。
「これがお前だ。受け入れろ」
「嘘だ。こんな跡形もなく――こんなに……」
「ん?」
「俺……イケメンになっとる。自分で言うのも恥ずいけど、なんかかっこいい感じがする」
男前とは少し違うけど、美形であることには変わりない。
ほりの深い顔、ウエーブした金髪。
性格のせいかアホっぽい顔立ちけど、愛嬌あるからモテるやろ。
なに、当然のことを思ったまでだ。いやだから大臣さん。
俺を変な目で見るんじゃあない!
「ま、これで落胆されるよりはましか」
白いあごひげをさすりながらそう言うダークエルフ。
もしかして俺、馬鹿にされてる? そりゃ、以前の自分と違うというのは悲しいようにも思えるけど。
外見で損したこと、沢山あるんですよね。
かつての面立ちを思い出しながら、大臣の声を聞く。
「お前は大魔王さまに裁かれる。俺はそれでここに来た。だから心してついてこい」
間をおかずに大臣が歩き出した。付いて歩けばいいのか。
何も言わずに後ろに連なった。
押し黙った魔族の群れを抜けて、大理石の居間を後にする。
痛みが響かないよう、ゆっくり歩いた。
「とりあえず、君は重罪人だ。城の内部を見れないようダークネスをさせてもらう」
「目が見えなくなるんですか?」
「当然だろ」
そう言って手を上下に振る大臣。
「我が命よ。非情を持って闇を解き放て――ダークネス」
んんん? 視界がぼやけて何も見えなくなってしまった。
「メイドがお前を連れていく。抵抗はするな」
「メイド?」
「はい、わたくしが」
細い女性の声がしたかと思うと今度は足から力が抜けてしまった。
どういうわけか地面の抵抗を一切感じれないのだ。
「あの、今は何をしておいでで?」
「体を上空に浮かせて、メイドが魔法でお前を運んでいる。酔わないよう魔力で固定しているが、もしお前が変に動いたり詮索してくるようであれば、こちらもそれ相応の対応をする。死にたくなきゃ黙っとけ」
たぶん俺、いま脅されてる。
殺されたくないから大人しく闇のベールの中で静かにしてよ。
裁判は魔王がするようだし、今は刑を軽くされるよう願うことしかできない。
俺はすっかり変わってしまった己の顔を擦りながら、これからのことについて考え更けった。
……それから数分後。
「魔法を解く。くれぐれも、中では無礼なことをしないように」
静かな大臣の声とともに視界がもとに戻った。
下の方を見ると、ちゃんと赤絨毯の廊下の上に俺は立っていた。
ただ先程と違うのは、両隣に兵士がいて、俺が無機質な鎖で繋がれているということ。
完璧な罪人というわけだ。
そしてそれなりに緊張しながらも前の扉を見つめた。
高さは三メートルほどで、両左右に開くタイプだ。深紅色で銀の装飾された取っ手が美しい。
これを開けたら、玉座の間――と思っていたのに、どういう訳か見ているものが変わっていた。
立派な扉が、いつの間にか黒いメタルで出来たグロテスクな扉になっている。
幻覚でも見ているのかな、俺。
「この扉は変わってる」
前にいる大臣の声だ。とても淡々としていた。
「惑わされるだろう。ある者にはここに愛人の顔が映るようだ。生き物でもないのに、これは気まぐれな珍宝だからな。嫌な時にはもっともこの世で恐ろしいと思えるものに化けて人の心を食うそうだ。馬鹿にできんのだよ、これが」
そう言って扉から目をそらす大臣。
俺に見えているものとは違う何かを見ているということか。
ちなみに今、俺が見ているものはガラスで出来た美しい扉だった。
俺は扉に好かれているらしい。
「俺には綺麗な扉が見えます」
「そうか。でもこいつは気まぐれだ。自慢にはならん」
言い残すようにして、前の扉を握りしめる大臣。
巨漢なその男がガラスの戸を開いた。
――さて、玉座の間とご対面と行こうか。