表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

第二話 目覚め



――暗いな。


俺が目覚めた時に感じた最初の感想。

そして次に感じたこと。下、固すぎじゃね?

自分の突っ伏した頬から伝わってきたのは、冷たくて固い地面だった。


つまり俺はベッドに寝かされていない!


墓か? 俺はゾンビになって墓で覚醒したのか!

そう思って立ち上がろうとしたら、足元で金属が地面とこすれあう音がした。

見ると、どうやら俺の足に鎖が繋がっているらしい。

しかし墓に鎖などあるもんか? いや、ない。


鎖に繋がれているのはだいたい猛獣か奴隷か犯罪者だ。

どれにも俺がなるはずがない。

どういう訳なん――


「だぁっフ!」


突然のこと。俺の背中に何かがぶつかってきた。

無茶苦茶イタイ。


「……おっと、ゴメンねぇ?」


強めの女性の声だ。それにしても痛い。

別に強く当たったわけではないのに、ひどい痛みがする。


多分、空から落ちたせいだな。生きているのが不思議なくらいだぜ。


「だいじょうぶ? そこの……」


白い光が、俺の閉じたまぶたからくぐもって見えた。

あのマノと名乗る子も光る棒を持っていたけど、あれはもしかしたら地球上にはないモノだったのかなー。

今更になってあの時の違和感に気がついた。でもそれも過去となってしまった話だ。

俺は今と向き合うため、目を開けた。


暗い部屋に一つの白い光がさしている。


「あぁ、君、空から落ちてきたって子? わかるよ、痛いんでしょ。キャハッ、最高」


馬鹿にした声。それは光のある上の方から聞こえてきた。

そちらの方へ顔を動かすが、光でよく顔が見れない。

俺は相手を睨みつけてピントを合わせた。


「……あれ。子ども?」


大人の声にも思えたけど、こちらを面白そうに眺めていたのはほんの小さな子どもだった。


少しのソバカスがあって、ニイッと口角を上げた顔が可愛らしい、女の子である。


まぁ、確かに手には光る棒を持っているよ。

でもあのハイテンションな発言をこの子がしたとでも?

まさか、ありえない。


俺は知らぬ間に薄く笑っていた。


「な、我を見て笑ったなー。我は小人の長に仕えし者だぞ。今は小遣い稼ぎに牢番なんてのをやってるけどにゃ。お前ごときに馬鹿にされてはたまらないのだ」


自然に出た俺の笑みも消える。

上の幼稚園児の声は子供とは似つかない成人した女性の声だった。

態度も横柄だ。


「小人……、俺はそんなもの知らないぞぉ」


驚きで出た言葉が、なぜかボロくそに掠れている。そして肺が痛い。


「知らなーい? うっそぅ、エルフはそんなに馬鹿なのかぁ? 長生きしすぎて世間を忘れたとか、オモロ」


そう言って飛び跳ねる小娘。茶色の三つ編みが畝りながら跳ねた。


「あんたさ、ここ牢屋なんだから。とぼけても、あとで痛い思いをするヨ。魔王は冗談がきかないんだから」

「ちょっと、まて」


むせかえりながら、一メートル足らずの小人を目で追う。

今さらだが、四角くえぐられた洞窟のような所に俺は寝かされていたようだ。


「この世界には魔王がいるのか」

「もちろん。そしてあんたはこの魔王城に不法侵入したのよ。空からね」

「空から落ちてか。じゃあ、なぜ俺は生きている?」

「沼に落ちたから。でも、あんたは運がいい。沼の中で二日生き続けた。だから城内のものがあんたをここに連れてきたのっよ」


彼女の言うことは信じられない。

なぜなら俺は泳げないし、放置されて二日間生き残れるような頑丈な体ではないのだ。


「うそだ」

「なら、自分の体を見て判断すればーぁ。信じるも信じないも、キャハッ、我には関係なーい」

「見れないよ」

「どうして?」

「痛い」


体を曲げうとすると、体中の皮膚が千切れそうだと悲鳴を上げていた。

つまり、極上に痛いんです。

無理に動かせば容体も悪化するだろう。

だからほんのちょっとの期待をこめて彼女を見つめたのだが、生意気な小人は変な笑い声をあげるだけだった。


「だって、骨折しか治してないモン。あざとかフツー我慢でしょう?」

「骨折? 治したの?」

「ヒール、キュア、いろいろあるでしょー、つか、エルフでそんな魔法も知らないとか、チョーうけるぅー」


ヒール? キュア? なんでもありなんだな。

小人のハイテンションのせいか、妙に納得する俺がいた。


「というより、エルフって?」

「あんたのこと」

「まさか、俺は人間。小人はエルフと人間の違いも分からないのかよ」


笑って相手を冷やかす。

俺は生まれてこのかたずっと人間として生きてきたんだ。エルフであるはずがない。


「俺は地球にいたんだ。地球に魔界なんてないし、小人もお話の世界だ。お前らがおかしいんだよ」


小さい少女は押し黙っている。地球を知らないのだろうか。


「ここ、赤い星だけど。俺の故郷は青いビューティフルな星な。空気もおいしい。科学が発達してる。田舎と都会がマッチした絶妙なとこが一番なんだよ。魔界も無理なく生きていけるなら面白そうだけど、いきなり牢獄だしな。俺、怪我が治ったら元の場所に返してよ。マノってやつと交換してさ」


――そうだ、あいつが悪い。

しかも俺一人だけじゃないか。どうせならクラス召喚が良かったのに。


仲の良かった奴らを思い出す。今帰れば、この出来事を笑って聞いてくれるだろうか。

んな、訳ねーだろっと。


「あ、えっと」

「ん」


小人が困った表情をしている。

なんだ、こんな生き物でも普通の反応をするんじゃないか。


少し安堵した。

が、彼女の表情は一瞬にして変わっていた。

目を丸くして、口を開く。


「あんた、もしかして。――記憶障害アンド転生の記憶が出てきちゃったんじゃない!! それってキャハハなのだ」

「はいー?」

「さっそく、魔王様にご報告よ。あと言っとくけど、魔王様は白いやつがきらいなの! あんた、下手したら殺されちゃうヨ? 」


走って牢獄から出ていこうとする小人。

それはまるで、新しい遊びを思いついた子どものようだった。


「ちょ、俺に記憶障害なんてねーよ! まてっ、こん野郎。へんなこと言ったら許さねぇぜ!」

「我には何も聞こえなーい! これは我の手柄なんで、まさにキャッハ―な気分!」

「どういうことだよ!」


ついに俺は怒鳴っていた。

それでも、彼女は見向きもせずに小さい手で扉を開ける。

扉は丸くてぶ厚い、まるで潜水艦のハッチのような形をしていた。


「うそだろ」


重く閉ざされたハッチを見つめながら、動けないまま三十分後。

扉の向こうから来た、大柄の男たちが俺を城の内部へと連れ出した。


重罪人の、裁判の時だ――。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ