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第九話 オーラ

ドレファー店長は今日も青い。

エプロンは黒だけどね。朝から新聞紙を広げて、顔にしわを寄せている。


「おはようございます」


コクっと毛のない頭が頷いた。順調らしいです。


「無口だなー、マスター」

「スライム!」


まさにその通りだけどな! 給料を下げられるわけにはいかねんだ。


店長の動きは、と――あ、見られたわ。


「変わったな」

「え?」


突然の発言。

しかし店長は「変わった」と述べたきり、それに触れることはしなかった。


「今日はウェイターを頼む」

「……はい」


ま、いっか。

俺は店を出て、町に慣れることにした。

昼まではフリーなんだ。夜の仕事ですんで。


――


「どうでしょうか。ステータスの方は?」

「あ、うん」


勇者としての僕は今、ステータスを見るよう勧められている。

とても変な気分だ。


「アーン、他の人には見えないんですか?」

「本人にしかわかりません」

「なら、読み上げますね」


ステータスはいちよう僕の前に浮かんでいる。

物体ではないみたいだ。


僕は文字を読み上げた。


「破壊 500……で、回復は400」

「攻撃力と回復の早さですね。平民を100と考えてください」

「アハ、すごい数字だね。オーラは1000……いや――?」

「どうされましたか?」


桁が違わない?

僕は恐る恐る、前の数字を口に出した。


「十万。これがオーラの値です」

「なんと!」


群衆の中に驚きの声があがる。

オーラが何か分からないけど、すごいようだね。


「さすが勇者!! これなら頼もしい」


王様も喜んでるかんじだ。良かった――じゃなくて、


「オーラって何です?」

「知名度や影の濃さの値です」


へぇ、濃いんだ…………って。

必要か、この要素。


「意味が少し、分からないんですけど」

「例えばです、勇者。光が強ければ、影は濃くなる。光はスポットライトという知名度であり、影である存在感は濃くなるのです。それだけではありません。オーラが高ければ高いほど敵はあなたを恐れるでしょう。第六感が危ないと感知するからです」

「あれかな、恐ろしい魔力を感じるみたいな」

「はぁ、生来持っているオーラと環境が生んだ存在感が相まってこのような数字になったのでしょうな」


勇者なのに怖がられるのか。

本来の僕とは正反対だ。


でも、面白そうだよ。なかなかね。


「勇者、魔力の方は?」

「はい、そうですね――」


こんな感じでステータスは一通り確認した。使える魔法は土魔法と雷魔法らしい。

そしてそれで分かったことは、この世界の人が極端に弱いのか、僕が最強になりすぎているということだった。


「一万の兵をあげましょう。みな、あなたが来られるのを心待ちにしていたのですから」

「兵士ですか!?」


ヘイ、指揮官になれって言うの?

僕には無理だよ。それに……もともといるんじゃないの、指揮官なんて。

他人に恨まれるのはもう御免なんだ。


「僕に軍は不要です。少しの仲間と協力してくれる隊長がいれば十分でしょう。――それに、僕はまだ自分が勇者であることを自覚していません」

「自覚ですか」

「はい。僕はまだ勇気ある行動をしていない。何もしていないのに勇者と呼ぶのは間違いでしょう」


王の頬がピクリと動いた。

そしてモアイのように固まった表情の中で、細い目だけが光って見えた。


「何をすれば勇気ある行動となりますかな」

「……え」

「答えは出ませんか。なら、私から提案させてもらいます」


恐ろしい人だな。

穏やかだと思えば、獣のような目つきにもなる。


「人を一人だけです。一人の命を魔物から守ってみてください。守れたらあなたは勇者です」

「……それだけですか」


僕の問いに王様はうなずいた。


「軍も使わず、あなたが助けたいと思った時に力を用いるのです。そうすればあなたは納得する。自分が勇者だと。そのために呼ばれたのですからね。それに」

「それに?」

「勇者という概念は異界から来たあなたと私とでは違うのだから、ご自分で感じていただく必要がある。勇気ある行動をとってください」

「そうですね……もし、守れなかったら?」

「それなら責任は私にある。王自ら、お詫びの品と共にあなたを元の地へお送りする」

「分かりました」


帰りの保証はあるようだ。

それは助かるね。


「さて、勇者。あなたは仲間を求めましたね」

「はい」

「ここにいる者たちから選びなさい。中でも、私のすすめはこの五人だ」


王がそう言って左手を上げる。

手の方向には、五人の男女が並んでいた。


ペコっと頭を下げてくれている。


「話しをしに行ってもいいですか?」

「もちろん」


許可を貰った。

あちらの人たちも僕の方へ近づいてきてくれている。


その中でも一番背の高い青年が、握手を求めてきた。


「はじめまして、勇者」

「はじめまして」

「俺はクック。剣士一筋で生きてきた人間だ。力と技術で勇者を支えたい。で、彼女は魔法使いだ」

「はじめまして」


ツインテールの白い髪が美しい、柔和そうな人だった。

木の杖を両手で持ちながら、微笑んでいる。


「シュェリーですわ、勇者様」

「シェリー?」

「いえ、シュェリー。字は雪に麗しいと書いて、雪麗シュェリー。でもお好きにお呼びください」

「あ、そう……なんだ? とにかくありがと」


アルファベットとは違うのかな?

ま、この世界にも文字があることは分かったよ。


シュェリーに続いて、地味な服を着た女の子が挨拶をしてきた。


「あの……薬師です。毒を盛ることも、治すこともできる――と思います、勇者さん」

「あ、そうなんだ」

「はい」


小さい声だ。

口元には紫のスカーフを巻いている。


しかし彼女が黙ってしまうと、隣の人が話しかけてきた。


顔を見ると僕よりも年上のようで、落ち着きはらった男性だ。

それでも、きらびやかな格好で青い帯に小刀をさした姿は、まさにアラビアンの戦士だった。


「私は商人の出。なにかと役に立つことができるかと」

「うん。助かるよ」

「嬉しいお言葉です。名はグエンと申します」

「グエン……格好良い名前だね。僕はメイソン。みんなよろしく」


最後の一人だ。

僕は列の端に目を向けた。


そこには黒髪の美しい女の子がいた。


艶のある長い髪と、不思議なくらいに赤い瞳が印象的だ。

本当に綺麗な顔をしている。


僕は自然に、息をすることさえ忘れていた。


「……名前は?」

「リンシン。ドラゴンの統率者よ」


彼女の悲しそうに閉ざされた唇が、目に焼き付いていた。

柔らかそうで、輝いていて――

僕はなんか、もう――死にそうだよ。




真反対だわ(´・ω・`)



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