ドラマを使った広報に失敗した!
そろそろ、ここら辺で締めくくりとさせていただこう。
さて、最終章は「あのドラマ」についての話題である。埼玉県民にとっては苦笑いしてしまうような、そんな話である。
今まで述べてきたように、埼玉県はマスメディアによる露出が少なく、ときどき旅番組が取材に来る程度であった。しかし、迎えた2009年、かのNHK連続テレビ小説で埼玉・川越が舞台となった。
朝ドラは、毎回 実在する地域が舞台になっている。特に、風習、文化などに特色があり、いかにもドラマが作りやすそ~な地域にお呼びがかかる。
しかし、埼玉は今まで述べた通り、これといった特色がない! とはいえ、朝ドラの舞台は不公平がないように全国各地をまんべんなく舞台にするから、埼玉を無視するわけにはいかない。
こうして迎えた1992年初秋、朝ドラ47作目の「おんなは度胸」が終わった。当たり前のことだが、都道府県は47。「おんなは度胸」も47作目。結局、埼玉にスポットが当たらないまま、日本を1周してしまったのだ。東京や北海道など、何回か舞台が重複している作品もあったから、埼玉以外にもお呼びがかからなかった地域はあるものの、当時の埼玉県民は、「うわ~、結局 舞台にならないで埼玉 終わったじゃん! そんなことだろうと思った!」という気持ちだったのだろう。
で、それから15年後の2007年、福井県が舞台だった「とりとてちん」が終わり、いよいよ やっていないのは埼玉と島根だけになってしまった。埼玉県民も「うわ、ヤバイ」と思い始めたはず。普通に考えれば次の舞台は埼玉か島根のどちらかであるが、どうしたものか。
そして迎えた2008年、先にテープを切ったのは島根で、「だんだん」が放映、ついに埼玉だけが残ってしまった!
こうして、埼玉を舞台にしていないことに気がついたNHKは、「だんだん」の次の朝ドラで埼玉を舞台にすることを決定、ドラマ制作に取り掛かったのであるが―――。
やっぱり、埼玉にはネタが無かった。
結構 苦心して作ったのだろうが、こうして2009年に放映された「つばさ」は、いろいろな意味で考えさせられる作品だった。
舞台は川越。文化、歴史、祭り、風土などを題材にする朝ドラにとっては、まあまあ妥当なところだろう。割と名も知れてるし。
続いて、主人公の設定。多部未華子さんが務めたヒロインは、和菓子屋の娘。川越と和菓子屋を結びつけるのも、まあ異論は無い。至って妥当なセンだと思う。
問題はその後。回を追うごとに、ヒロインの拠点はFMラジオ局に変化! 和菓子屋はどこ行った!? 川越じゃなくてもいいじゃん! ってか当時は川越に そんなもの無かったし!
ヒロインの拠点であるFMラジオ「ラジオぽてと」は、劇中で登場するコミュニティーラジオである。ううむ、「ラジオぽてと」って、もっといいネーミングは無かったの……?
お蔭様で、「つばさ」の舞台が川越であった必要性はどこへやら、コミュニティーラジオでのドタバタ劇と化してしまった。川越の自慢である歴史的な町並み、建造物は、映像が切り替わる1瞬だけ移るに留まった。時の鐘がコンマ1秒だけ出てきて、「グワ~ン」と鐘が鳴る―――そんなカンジ。
たまに和菓子屋が出てきたかと思えば、家庭内のドタバタシーンや盛り上がる場面で、川越とは何の関係も無いサンバダンサーが大挙してくる、無意味なくらいコミカルな演出。これには「テンションが高すぎて うるさい」といった地元からの声が多かったらしい……。埼玉の何も無さを補ったり、ウケ狙いを図ろうとしたあまり、空振ってしまった、という感がある。
劇中に登場する「ラジオの精」や「川越キネマの住人」といった埋め草的で突飛なキャラクターも微妙であったように思う。
あのドラマは、無作為な演出が「埼玉の何も無さ」を助長してしまったように思うのだが……。
このドラマは、それだけでは終わらない。なんとも不名誉は記録を作ってしまったのだ。
「つばさ」の平均視聴率は13.8%で過去最低を更新! それに加えて、朝ドラの平均視聴率が15%を切ったのは史上初、というオマケ付きだ。
埼玉が舞台であった朝ドラには、埼玉県民にとって期待にも特別なものがあったはず。あの空回りした演出、無理やり考えたような設定、それに不名誉な記録。これらは、埼玉県民をどれだけガッカリさせたことか(?)!
し、か、し、川越市も、ここまで来たら止められない、とばかりに全面的に乗っかり、「つばさ」の舞台であることを猛アピール。街中には「つばさ」のロゴが描かれた幟やステッカーが溢れたものだった。さらには、都心と川越を結ぶ西武鉄道(新宿線)も、「つばさ」のラッピングを施した「レッドアロー・つばさ号」なる列車の運転を開始、なんだかんだ言って、「つばさ」フィーバーが巻き起こったのだった。
まあ、この辺りから、川越の観光客数は随分 増えたように思う。このドラマを契機に格段に増えたわけではないのだが、現在に至るまで おおむね右肩上がりで推移しているようだし、川越の観光地としての要素は確立されたと言えるだろう。最近では外国人観光客の姿も増えてきている。
題名にこそ「広報に失敗した」と書いたが、これには両論あることだろう。だが、川越を舞台にしたドラマで「負の快挙」を立ててしまったことは、実に残念ではある。
ちなみ、あのネーミングセンス皆無の「ラジオぽてと」は、劇中での設定上のラジオ局に留まらず、「つばさ」放送終了後に実際のラジオ局として配信を開始した(80.8MHz)。どれほどのリスナーがいるのかは知らないが、地元のローカルな情報を伝えているようである。