はじめに―――埼玉県民の自虐
突然だが、私は埼玉生まれ・埼玉育ちで、割と地元愛が強い。
埼玉は、以前から東京のベットタウンであり、東京の地価高騰の波に流されて移り住んだ県民が多い。だから埼玉県は地元愛が弱いと言われるが、私に限っては話も変わってくる。生粋の(?)埼玉県民である私は、その地元愛が高じて新書まで書いてしまったほど(「ローカる埼玉 ~埼玉県民も知らない!? 知って得しない埼玉の初耳学」)。読者の皆様のおかげで、その小説が最も評価点が高いという、妙な結果になっている。
さて、先日テレビを見ていて、某テレビ番組の中で、魅力度ランキング44位の埼玉県について どう思うか、という街頭インタビューを行っていた。インタビューは主に関東近郊の各地で行われていて、隣県の市民が埼玉の認識を喋っている光景は なかなか面白かったが、私はそれを見ながら違和感を覚えていた。
―――埼玉県って、魅力度ランキング44位なの!?
その魅力度ランキングとやらが どこまで正しいかはともかく、47位中44位とは、あまりに低すぎる。ただ、そう思いながらも、埼玉って何もないからな~、と妙に納得できるのも事実だった。
先述の新書を書いていたときにも痛感したが、埼玉は本当に何もない。千葉にある某テーマパークのような著名観光地も特にないし、これといって特別な名産品があるわけでもない。ネギ? 煎餅?……確かに、有名であることには間違いないのだが、今ひとつ魅力に欠ける。
観光地、無いわけではないのだ。川越・蔵造りの町並み、行田の埼玉古墳群……。
でもね、自慢できる観光地が古墳って……。千葉県なら、間違いなく自慢ポイントに、某テーマパークがランクインするだろう。だが、それと並んで古墳など、見劣り以前の問題である。埼玉県は、テレビ番組などにおいて、しばしば千葉県とライバルにさせられるが、これでは勝負もついた。埼玉は、もはや千葉のライバルとも言えそうにない。
その魅力度ランキングによれば、1位は北海道らしい。2位は京都府。なるほど。考える間もなく誰もが納得である。
まあ確かにね。その他にも、魅力度ランキングで上位にランクインしているのは、一様に国内旅行の定番、みたいな地域である。東京、沖縄などなど。
埼玉に旅行する人など、聞いたこともない。―――いるのだろうが、かなりの少数派と見える。関東圏の人にとっては余裕の日帰り圏だし、観光スポットもパッとしない。
先述の新書にも書いたが、埼玉には割と「日本一」と誇れるものがある。それは、農産物であったり、工業製品であったり……。だが、それらは「東京などの大消費地に近く、交通の便が良い」という立地から来ているのであって、それ以外に大きな理由もなかろう。節句人形など、伝統工芸品も埼玉にはあるが、伝統工芸の無い県など存在しないだろう(たぶん)。
埼玉の日本一を紹介する本というのがある。県民ですら知らない日本一が紹介されている。が、別に埼玉が誇らしいとは思えなかった。〇〇の出荷額が日本一、と言われても、「だから何?」という思いは拭えない。埼玉の誇りと、他県の羨望は、全くと言っていいほど一致していない。
その点、魅力度ランキング上位の都道府県は流石である。出荷額自慢に頼らずとも、数字の枠を超えた魅力を持っている。北海道の日本一など、面積の大きさと、じゃがいもや小麦などの生産量くらいしか思い浮かばないが(他にもたくさんある)、観光客にとっては そんな情報どうでもいいし、知っても役に立たない。観光客が求めているのは、そんなウンチクじみた情報ではない。
県民の目から見ても、埼玉は魅力がない。海が無いのは仕方ないけれど、海が無い県など他にもいくらでもあるし、この際 海の有無と魅力は無関係、と結論づけていいだろう。
私は、この魅力度ランキングとやらを見て埼玉を悲観し、ならば埼玉を称える文章を作ってやろうと意気込んでデスクに腰を下ろしたわけだが、称える……となると、やはり日本一ランキングを使いたいところである。だが、そんな数字など称えるに値しないだろう。
そこで私は、埼玉を称える意思を割とあっさり諦め、どうして魅力が無いのかを考えることにした。どうせなら、埼玉の魅力を発信するべきなんだろうが、私は県の回し者じゃないし、小説投稿サイトで宣伝しても仕方ない。
前置きが長くなったが、埼玉が魅力に欠ける理由を究明しようと思う。―――東京が上位なのに、その隣の埼玉が44位なんて ありえない!―――そう心の中で叫びながら。