しるし -異世界での生活- 3
この世界に来て3日が経ちました。私は…引きこもっていました。いえ、積極的に引きこもっている訳ではありません。雨がすごいのです。こう、外のザーーーーーッという音が鳴り止まないのです。引きこもるなんて大学生以来ですよ。あ、大学時代のはプチ引きこもりですよ。シリアスなやつじゃなくて。なんせ田舎者でしたから、都会の世界に色々カルチャーショックを受けて学校に行っていない時期も少しありました。
異世界見物が全然出来ていない私ですが、1つ明らかに異世界な物を発見しました。それが私の額にある、しるしです。この部屋に案内された時、机にあった手鏡で見た時に驚いたのは、自分の顔が高校生に戻っていた事と、額に黒い三日月のマークが入っている事でした。
マルタさんはしきりに『しるしを授かった方』とか、『しるし授かりし者』とか呼んでくれました。なんか恥ずかしい気持ちもありましたが、真剣に言ってくれるので嬉しい気もします。
さて、この三日間、私はただただ引きこもっていたわけではありません。マルタさんといっぱいお話して、この世界の事を把握しようと努めていました。まず、嬉しかったのはマルタさんが私の隣の部屋に住んでいる事でした。実は私が今泊まらせてもらっている部屋は元々マルタさんが使っていたそうなんですが、私に譲ってくれて、隣の4畳くらいの小さな部屋にお引越ししてくれました。
その事を知った私は自分が小さい部屋で良いと申し出ましたが、マルタさんは頑なに、ソメ様はしるしを授かりし者ですから。と言って聞きません。って、いつからソメさんからソメ様になったんだろうか。まあ、悪い気はしないけど。
ちなみにあの手鏡はマルタさんの忘れものだったみたいで今はありません。確かにピンクの可愛らしい装飾のものでしたから、彼女にはぴったりです。
そうです。彼女はとても可愛らしい方でした。肩まで伸ばした髪は綺麗な金髪で、顔は少し西洋っぽい雰囲気がありました。綺麗な髪ですねと私が褒めると、照れた彼女は俯きながら髪をかきあげ、そんな事ないですよと笑いました。その時に見えた耳が普通より少し長い事に気が付き、じっと見ていると、
「クォーターなんです。エルフの。」
と教えてくれました。
…な、なにーーーーーーーーーーーーーーー!?
や、やはり異世界なのです。エルフがいるのです。しかも目の前に。クォーターだけど。色々質問したかったのですが、私が違う世界から来ているとバレると色々面倒だと思い、探り探りで質問をしていきました。
あ、ちなみに私がこの教会にお世話になっているのは、『しるし授かりし者』になったからだそうです。これも私の巧みな話術で情報を引き出したのですが(笑)、まとめると、私が『しるし授かりし者』になったので、教会が保護した。という事らしいのです。
しるしは産まれながらに持っている人もいるし、突然現れる事もあるとの事。生まれた時からしるしがある人は教会からありとあらゆる援助を受ける事が出来、英才教育を施された後、宣教師や神父等教会に重要な役割を果たす職業につく人が多いとの事です。
私の様に突然しるしを授かった人もその時点から教会の援助を受ける事が出来、やはり将来は、教会の為に大きな働きをするとの事でした。
実はこの『しるし授かりし者』はすごく数が少ないらしく、マルタさんも見るのは私が2人目だということでした。(最初の1人は数ある教会の中でもトップクラスの大きな教会の神父さんだったとの事です。)
なので、こんな田舎の小さな教会に来てもらえるなんて本来はあり得ない事で、本当に嬉しいんですと、マルタさんは真剣な目で見つめながら何度も言ってくれます。
ふふ、そうか。私は選ばれし者。就職活動では70社以上落とされたが(笑)、今や神に選ばれし者。くくく。うふふ。あーっはっはっはっはっは。うーっはっはっは。あー……。
大変失礼致しました。調子に乗りました。申し訳ございません。ですが、人に認めてもらえる事なんて久しくないもので嬉しくてつい。あ、神に認められたんでした(笑)。
とにかくこの3日間退屈しませんでした。美人と話していると時間はあっという間です。マルタさんの話をいっぱい聞きましたし、私も私の話を(違う世界から来たことがバレないよう注意しながら)たくさんしました。彼女はずっと笑顔で、何の取り柄もない私のつまらない話をよく聞いてくれました。あ、『しるし授かりし者』でした。取り柄ありました(笑)。
明日は晴れるそうです。いよいよ、冒険が始まる予感がします。