遠恋
普段は外出面倒くさい。
周りはチョコの話題ばかり。
板チョコを買ってカバンに入れた。
駅の改札を出て立ってるあなた。気がついて手を振っている。
嬉しそうに笑ってくれるから、少しだけ後悔。
もう少し可愛い格好をすればよかったかもしれない。
今年のバレンタインディは土曜日で朝の海を見たいという君を出迎える。
冷える空気。ジーンズジャケット、クリスマスに贈った赤いマフラー。
電車がリズムで吐き出されてくる人の流れ。
君を見つけて嬉しくなった。
「寒くない?」
ハモった言葉にかすかに照れる。
駅そばのファーストフードでセットメニューを買って海を見に行く。
冬の海は淋しいって思ってたけど、一緒だからかな?
優しく感じちゃう。
マフラーから覗く鼻の先のあかさが気になる。
ファーストフードで買ったスープで手を温めながら眺める海。
「海は大きいね」
その言葉に僕は頷く。
「きれいだわ」
遠くを見るように呟きをこぼす。
二人で過ごす時間はあっという間に過ぎていく。
カバンに入れたチョコは渡せぬまま。
「そうだ」
駅の改札の手前、名残惜しくて思い出したようにあげた声が重なる。
あなたが取り出すのは小さな紙袋。
「誕生日おめでとう」
「バレンタインだから!」
私はその手に板チョコを押しつける。
今日は二月十四日バレンタインディ。
今日は二月十四日君の生まれた誕生日。
「好きだよ」
囁けば、君はそっと恥ずかしそうに俯いた。
「時間、だから……」
君を見送って二分もしない時間。
振動にスマホを確認する。
スタンプを三つ。
『好き』『楽しかった』『またね』
すっごく気恥ずかしくて電車のドアに額をあてる。
少しだけ後悔。
もう少し可愛いチョコを選べばよかったかもしれない。




