平成18年12月某日
事故の知らせを受けたのは真夜中の事だった。英里子が帰宅途中に運転を誤り、石垣に突っ込んで大破したとの知らせだった。すぐさま病院先へ搬送されたが、殆ど即死だったそうだ。現場は見通しの悪いカーブが続く山道で、事件当時は雨が降っていた。
警察側はこの1件を事故死として扱った。数日後に手紙が届いた。英里子からだった。
兄さんへ
この手紙を兄さんが読むまでに、私の未練が完全に断ち切られていることを祈ります。1年と少し前に電話で別れたあの日、私は違う男性と付き合う事に決めたはずでした。お互いに違う人生を歩んでいこうと決めたはずでした。連絡も絶ちました。
その後、私は数人の男性とお付き合いを重ねてみましたが、駄目でした。気が付くと兄さんを探している自分がいます。どんなに忘れようとしても駄目でした。私には最初から兄さんしかいなかったようです。
最後に会ったあの日、兄さんが一目散に駆け付けて私を抱きしめてくれて、この上ない幸せでした。紛れも無い愛でした。そしてこれ程までに、自分達が兄妹で生まれたのを憎んだ日はありませんでした。永久に結ばれる事のない事実に打ちのめされたからです。
あれから私は妊娠しました。すぐに兄さんの子だと分かりました。呪われた命です。お母さんには一切告げていませんのでご安心下さい。そして愚かな愛を、私自身の手で壊してしまう事をお許し下さい。
これから私は兄さんの思い出となる為に旅立ちます。どうかお元気で、さようなら。
平成18年12月 服部 英里子