集るカラス
ウミベガラスと呼ばれる巻貝を食べる鳥がいる。このウミベガラスは貝を高所から落として割って中身を食べる方法をとる。
その際、ウミベガラスは最小の高度と落下回数で貝を割り、最大の効率でもって食事をとる。
また、小さい貝は食べようとしない。仮に食べようとしても労力に見合ったエネルギーを得られないからである。
このような動物の例は他にいくつもある、
彼らは、どのようにすれば最小の労力でもって食にありつけるのかを知っているのだ。
* * * * *
今日は朝から、やけにカラスが私の行く先々で止まっている。
それとも、私がカラスの集まる場所に突っ込んでいるのだろうか。分からない。
カーカーカーカー、五月蠅く鳴いてこっちはいい迷惑だ。
こちとら、昨日は夜遅くまで残業した上、帰ったら帰ったでそこからさらに女房に付き合わされて、ほぼ寝てないんだ。
もう少しくらい静かにさせてくれ。
いつもの会社へ向かう道の途中、鉄骨を組まれた建設現場の前で歩く足を止る
そして無駄だと分かってはいても、私は鉄骨に止まるカラスの一匹を睨みあげる。濡羽色に染まっているくせに、妙に澄んでいる瞳もこちらを見ている。
「私は睡眠不足なのに、朝から元気に鳴きやがって」
寝不足から来る苛立ちから、あの喚くカラスらに石を投げつけたい衝動に駆られた。
本当に投げる訳ではない、素振りをしてあのカラスをビビらせるだけだ。
私が地面に落ちていた手頃な大きさの石を拾い、カラスのいる建設現場に足を近づいた時だった。
「危ない!」
どこからともなく誰かの声が誰かに向けて叫ばれた。
それは私の事なのか、それとも別の人なのか、動いたら「危ない」のか、それとも動けの意味なのか。
私は考えてしまい――止まった。
止まった直後、私の世界は朱く染まる。
右目は見えない、身体も自由に動かない。
何とか動く左目で自分の様子を確かめると、私の身体は鉄筋で串刺しになっていた。
空が暗い。
朱色に滲む視界に一面のカラスが映った。
「集る」と書いて「たかる」と読みます。「集まる」が脱字でこうなったのではありません。
この後、男がどうなったかはご想像にお任せ。