仲間
ものすごく不快な寝起きだった。昨日は感情の起伏が激しすぎて心もくたくただったし、殴った痕も殴られた痕も痛かったし、しかもかたい床の上でそのまま寝ちゃったから、僕らはものすごく機嫌が悪かった。
「お前が出ろよ」
「はぁ?お前が出ろよ」
「警察だったらどうするんだよ」
「こんなインターホン鳴らす警官いるかよ」
そう言って僕らは笑いあった。確かに、ガキの頃したような押し方だった。
「警察じゃないならお前が出ろよ」
「無理」
一発軽く殴って、いやいや僕が出る羽目になった。玄関に向かう間も絶えず、文字通り絶えずインターホンが鳴っていた。
「はーい・・」
目をこすりながら扉を開けると、目をこっちにむけてガキが立っていた。
がしゃ
「誰だった?」
「知らないガキ」
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴ・・
「何?何か用ですか」
そのガキは小学5、6年のちょっとぽっちゃりした細いメガネをかけた少年だった。
「ねぇ、僕見たよ」
「なにが」
「がとりんぐマシンガン」
ああ。今でもこれを行った時の、あいつの顔がまざまざと、まざまざと思い出すよ。勝ちほこった顔。ホントに。憎たらしいって言葉がぴったりだった。頬をおもいっきりつねってぐにゅぐにゅしたかったな。まぁそれは後で実現できたんだけどさ。この時が一番したかった。
だけど、もう、僕は僕で黙っちゃったんだよね。「しまった」って顔をさらけ出しちゃった。
「ねぇ、見せてよ。じゃないと警察呼ぶよ」
たった一回の騒音で警察まで呼ぶような近所の誰か。それは、もしかして、
「お前、昨日の警察はお前の親が」
「いや、あれは違う別の人だよ。ここの隣のどっちかじゃない?僕は下の階に住んでるから」
下の階?ならどうしてベランダにあるバルカンが見えるんだって思わず聞こうと思ったけど、墓穴を掘るようなまねはしなかった。
「がとりんぐマシンガンなんか持ってません。じゃあね」がしゃ
……
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴ・・
「なに?まだ用?」
「僕見たんだよ。昨日の夜、サイレンがちょうど聞こえてきた時、ここの部屋のベランダで二人が重そうな長い筒みたいなのを二つ、重ねて置いてるの」
まさか、まさかまさかあの時に、目撃者がいたとは…。僕らの計画がこんなガキ一人に…。
「そのあとに警察がここにも来たし、てっきり僕は二人が捕まるものなんだって思ってずっと見てたんだけど、どうしてかあの二人の警官は笑いながら帰って行ったんだよね。たぶんベランダに置いた何かがばれなかったんだろうって僕思ってさ。でもあなたたちはほんと馬鹿だよね。なんで今もベランダにあれが置いてあるの?昨日の晩に片づければ良かったのに。まさか忘れてたなんて馬鹿なこと言わないよね?それってすごく馬鹿なことだから」
興奮してるのか最後のほうは馬鹿としか聞こえなかったけど、まあ、確かに事の顛末はそういうことだった。悔しいけどこの少年が言うとおり僕ら完全に油断してベランダから部屋に引き揚げるのを完璧に忘れてたんだ。つまりまあ、今もベランダにあるってこと。
しかもそれが致命的なミスとなった。昨日の晩に引っ込めておけば、この少年が暗闇に見た長い筒をバルカンだとは気付かなかったはず。
だけどまあまだ防ぐ手段はいくらでもあった。でも、こいつ、必死だったんだよね。ほんとに。それじゃあさっさと警察に言いなよって言いたかったんだけど、わざわざここへ来たこの少年の決意はそれじゃあないんだろう。
「で、僕らにどうしろと?」
「うん。仲間に入れて欲しい」
「いいよ」
いつもみんな読んでくれてありがとう。もちろんまだまだつづくよ。