ながれ。
ぼうっとなった僕はもう全てを話すしかないなー、なんてぼんやりと考えていた。
「ええっと、実は…実は…」
もう、恥ずかしいけど、半分泣きながらだったんだよね。本当に、この時、本当に怖さを感じたよ。ごめんなさいって気持ちが溢れだすんだ。
ゆっくりとテーブルの上に置かれたものを見つめて、全てを白状しようとした、んだ。
けれどテーブルの上には僕のノートパソコンがばらばらになっていた。
「実は…、実は…僕、あの、自分のパソコンを、解体して遊んでたんです…」
言いながら自分の頭の中でこの状況が再構成されるのを認識していた。
「この機器はどこから買ったの?」
若い警官がオシロスコープを指して聞く。さっきとは、雰囲気が、ガラリと変わっていた。
「ネットで、買いました。でも、こういうことって、いけないんですよね」
すいません。と言って深く謝る。ここでこうしておけば、全てがこの雰囲気で終わる。
「いやいやいや違法じゃないから大丈夫だよ。それにしてもよくここまでバラバラにしたなあ」
おっさんが感心の目を僕に向ける。感心の目だ。流れの逆転に思わず笑いそうになるけど、ぐっとこらえた。
「あ、そうなんですか!?てっきり僕はやっちゃいけないことなのかと…いやあ実はさっきの物音も電動ドライバー動かした音でして…次からは外でやります…」
緊張がほぐれたかのようにふるまう。たかがノートパソコンの分解に電動ドライバなんて必要なはずもなかったけど、テーブルの上に置いてあるってことはつまりそういうことなんだろう。
「そうだな。テレビ傷一つないもんな」
おっさんが笑って答える。なぜかわからないけど、警察ってすごいなって思った。すごい安心します。
だけどおっさんは、ふーんと言いながら、部屋をみわたして、くるりと向きを変えて、ベランダに、向かって、歩いて、ソファを回って、そのカーテンを開けたら、
ぱぁん
乾いた発砲音が、リビングに響いた。僕の知る限り、それは警察の銃の発砲音だった。
ぱぁん、ぱぁん、ぱぁん
それは何発も放たれた。ものすごくクリアな音質で。
テレビの側の目ざまし時計は一分間に渡って必死に発砲音を発砲し続けた。
「おいおいおいおい。目ざましを発砲音にしてるのかい」
「うーん…。まぁ、そうですね。こういうの好きなんです。これも自分で改造して作ったんです」
警官達の死角となるもう一方の窓からあいつがにやっと笑いながらこっちを見てやがる。それもそうなんだよ。この目ざましは初期のころ僕達が遊びで作ったやつで、広義のリモコンで操作できるようにもしてあったんだ。それをあいつがおそらく風呂場から玄関、外の廊下へ飛び出し窓に移って中の様子を見て、ぴっと、ってわけだろう。
ふぅ
おっさんが、ためいきをついた。全てが、終わった。
「じゃあ、こんな夜中に電動ドリルは使わないように。近所の人達に迷惑になるからね。今度は外でやりなさい」
「電動ドリルじゃなくて電動ドライバーですね。わかりました。すいませんでした。これからは注意してやります。」
「じゃあ、がんばってな。発明家くん」
若い警官が最後に笑いながら去っていった。
にやつきながら、あいつが玄関から入ってきた。
僕はあいつがリビングに入ってくるのを待って、一発、おもいきり殴った。あたりまえだろう。わざと下側からこするように殴ったから、あいつの真っ黒なゴーグルが上に跳ね跳んだ。
「お前、どんだけ危なかったか、わかってんのか」
あいつには知られたくないんだけど、僕、ほんとけんかとかしたことなくって、誰かを殴ったこともなくて、ぶっちゃけどう怒りを表現したらいいかわかんなかったんだよね。なさけないんだけどさ。
「お前、もうちょっとで、全部、全部、パーになるところだったんだぞ」
あいつは吹きどんだゴーグルをしゃがんで拾いながら、「いーじゃねーかよ。なんとかなったんだしさぁ」
すごい暴力。ふぁーって体中に満ち溢れてくるんだよな。このまま走っていってもう一回思いっきり蹴飛ばしてあいつの体が窓を突き破って…
「ただまぁ、ただまぁ、あれだよな。お前、よくやったよ。テーブルは」
この言い方はちょっと立場が上になって調子に乗りだしだしたんだよね。でも実際、テーブルに僕のパソコンがバラバラになってた時は、ちょっと、気づくまでに時間がかかったな。
「お前、あれだろ。僕が警察と話してる間リビングに戻って火薬を隠して、あの間に僕のパソコンを分解したんだろ」
「俺がパソコンを解体する様はまるで踊っているようだって言われたことあるんだぜ」
「どうでもいいよそんなの。お前、あの時どんだけ危なかったと思ってるんだよ。なあ?あれに気づかなかったら、いまごろ…」
笑ったおっさんと若い警官が、僕達を。
あいつさ、お前って呼ばれるのすっごい嫌いなんだよ。
「あーあーそうだねえ。危なかったよねえ。お前が警官目の前にしてびびって泣きそうだったからさ、気づく前に全部ゲロっちゃうのかと思ってひやひやしたよ」
もう一発殴って、殴り返されて、取っ組み合いになって、だんだん、けんかというものが分かってきたんだね。ほんとに、あれって、めちゃくちゃおもしろいよね。途中からもう、お互いわかってるんだから。もうやめてもいいっていうのが。でも殴り続けて殴り返されての繰り返しでまるで二人で「けんか」っていうものを「やってる」って感覚になってくるんだよね。こう、セックスみたいにさ。いや、何回も言うけど、その気はないよ?僕は。いやあいつもね。
ではぁはぁ言いながらリビングに横たわって寝た。
次の朝僕らはインターホンの音で目が覚めた。
ぴんぽんぴんぽんピンポンピンポンぴんぽんピンポンピンポンピンポンピンポーン
更新が遅くなってごめんね。待っててね。