準備。
そこで僕はセキュリティ度の高いソフトウェアを構築しようと考えた。でも実装してもすぐに破られた。そんなサイトがあるんだよ。このセキュリティを破ってみろ、なんて言って置いておく場所がさ。
実装して実装して実装しまくって破られて破られて破られたそんな時に、突然僕宛てにメールが来たんだ。
「ワタシノ弟子にナリナサイ」
みたいなね。いや英語でちょっと長かったから良く分からなかったんだけどだいたいはこんな内容だったんだ。その人はそのサイトで僕の作ったソフトを破ってる中の一人だったんだ。まぁ、シンプルに言えば、僕の努力を見てくれたんだね。
いやぁ、嬉しかった。まさかプログラミングの師匠ができるとは想像もしなかったよ。その日から僕は実装をやめて、彼女が出す課題をクリアする日々になった。課題っていうのは、毎回向こうが簡単なセキュリティのかかったソフトを実装してきて、それを僕が破るっていうものなんだけど、最初というか途中まではもう、さっぱりわからなかったね。いったい何をすれば破る事が出来るのかもわからなかったし、そもそものコードの理解だけでかなり時間を割かれたからね。でも、いや、あんまり言わないほうがいいんだけど、やっぱり、楽しいもんなんだよ。何かを突破するっていうのは。ゲームのclearとは比べ物にならないくらい濃い達成感なんだよ。まあ、師匠が僕のレベルに合わせた丁度いいものを作ってくれたっていうのもあるんだけどさ。
それがどのくらい続いたかなぁ…たぶん三週間くらいだったと思うんだけど、急にメールがぱったりと止まったんだ。この時は僕もだいぶ最初と比べたら力をつけていたから、結構師匠といろんな話ができたんだけど、急に、本当に急に、不通になっちゃったんだ。いや、これはどう考えても、これが最後の試験だと思ったね。僕がこの師匠から送られていたメールの跡をたどって、居場所を割り出して、今度は僕が声をかける番なんだと。それで最後に師匠が「もう、教えることは何もない」とか言っちゃってさ。師匠と弟子の最後のお別れ、みたいなね。
でもまぁ、現実は違ったんだよね。いや、トレースの方法もしっかり師匠に教わってたから師匠の居場所を突きとめたことは突きとめたんだけどさ、いやぁ、調べてみると師匠、刑務所に入ってたんだ。ちょうど音信不通になった時に逮捕されちゃったみたいでさ。ちょっと、ショックだよね。あれだけ僕に「これはあくまで攻撃方法を知って防御を学ぶだけだから、攻撃側に回るな」みたいなこと言ってたのにね。師匠の威厳ゼロだよ。いや、まだ尊敬してるけどさ。僕の想像したドラマチックな展開はどこにも展開されなかったね。
こんな形で師匠との修行の日々はあっけなく、淡白に終わったんだ。まあ、唯一の救いと言えば、師匠がけっこう美人な人だったってことかな。まぁ、やり取りは電子メールだけだったけど。
僕がカタカタやってた間、あいつ、もう一台バルカン買いやがった。
ひさしぶり。あいつも相変わらず。