おっさん
おっさんは目を見開いて僕らを見ていた。見開くといっても、君達が想像するような単に目をおっきく開いたなんてものじゃない。見開くんだ。目を。白目がくるりと一周し、吸い込まれそうに黒い瞳孔がすうっと収縮して僕らを見てるんだ。
僕はそれだけで震えあがった。けれど僕の隣にはあいつの存在感が急に濃く浮きでてきたような気がした。僕はあいつを振り返った。あいつは相変わらずほれぼれするようなかっこいいにやけた面でおっさんを見ていた。あいつの背中はいつだってしゃんとしてるんだ。
「なあ、おっさん。」
あいつはズボンのポケットに手を入れ、上着を軽く乱しながら前に進んでいった。
「おまえ、なにしてんだよ。」
あいつはおっさんの前へ立ち止まって直接聞いた。僕らがずっと聞きたかったことを面と向かって聞いた。
おっさんは目を見開いたまま焦点があいつのもとのいた場所に、合ったまま固定していた。小さな椅子の上に背を丸めて硬直している。おっさんの顔から汗が大量ににじみ出てきだす。
「ねえ。」
あいつの発する音のつながりに暴力やそのほかの不純物はなんら含まれていなかった。ただ純粋に、聞きたい事を聞こうとしている声音だった。
「ここで」
おっさんはおもむろに立ち上がり、目の前の窓へ直進した。それは、あたかもその窓の存在を忘れて、この遥か高い場所からそのまま飛び降りようとしたようだった。
なにもないところを走るように、そのまま窓に走っていったおっさんは窓にぶつかった衝撃で頭が後ろに跳ね、頭を軸として体ごと回転した。
僕らが見る中、おっさんは何度も何度も窓に衝突した。何も知らないハトが誤って透明なガラスにぶつかり、それでもなお何度もその道を通ろうとしているようだった。
大量の汗をかきながらおっさんは窓よりもその先をただひたすら凝視していた。おっさんの息はだんだんと荒くなり、窓には引き延ばされた血が汚く貼りついていた。
それでもおっさんは痛みを知らないかのようにただひたすら飛び降りようとしていた。
「ああああっぁああああああああああああああああ」
おっさんは狂っていた。けれどそれは、おっさんの生来のものの様な気がした。それがこの企業で助長され、後に戻れないところまで来てしまったんだ。
そして僕らはその緻密で正確な歯車を内部奥深くまで入り込み、一瞬で破壊したのだ。
おっさんは窓を割ろうと自分の頭を窓にぶつけだした。
僕らにはどうしようもなかった。
あいつの合図で僕らはおっさんのパソコンへ歩み寄り、その中に何があるのかを僕らは調べ始めた。