マンション。
あいつのマンションはそれまた近くにあった。座ってた場所のすぐ奥、二階建てのマンションで、二階の方、右から二番目の部屋がそれだった。
うん、広かった。一人暮らしにしては、マンションってのもおかしいけど、この広さも贅沢すぎてた。明るい肌色の電灯が大きなテレビと真っ黒なテーブルを照らしてたのが印象に残ってるなあ。そのテーブルの上に基盤とか配線、ドライバー類がごちゃごちゃに置いてあったんだよ。まるで、
「どう、俺のアジト。」
にやりと笑うあいつはかっこいいんだよな。この時もかっこよかった。彼はどうやらアジトとやらに招き入れてくれたようだった。アジトにしてはこんなに簡単に人を入れていいものだろうかと思ったんだけど、僕の目はその机の上のごちゃごちゃに目を奪われてた。
「これ、なにを作ってるの?」
「これは遠隔操作できるようにしたやつ。」
何を遠隔操作できるようにしたのかを聞きたかったけど、なんだか僕にとってはあまりにもレベルが高そうなことをしてるんじゃないかと思って雰囲気にのまれちゃってさ、まぁ要するにびびったわけ。だからちょっとだけさ、このゴーグルをつけたやつが変な、というよりも不審な人間に思えてきちゃってさ、急に恐くなったわけ。
「お前にさ、プログラムの方を担当してもらいたいんだよ。」
わお。そう思ったね。仕事を任せられちゃったよ。出会ってまだちょっとしか経ってないのにさ。ほんと、現実でこんな加速度的に急に展開していくことってあるんだね。恐さなんてもう忘れたよ。
言い忘れたけれど僕は19歳。他社承認せずに他社承認の蜜が欲しい時期なんだよ。だからね、もう、脳ミソの回路が焼けきれちゃってさ、舞い上がっちゃったわけ。すごいやつになんだか認められたような気がしてさ。だからもう、oKだよ。さっきまでの不安が逆位相でさ、えんどるふぃんノルアドレナリン全開だったわけだよ。ガキだよね。ほんと。こう書いてるいまもしみじみ思っちゃうよ。
「いいよ。僕がやるよ。他に仲間とかいるの?」
できあがっちゃってるでしょ。
「仲間は、いない。いままでは一人でやってきたんだけどさ、とうとうプログラムのほうで詰まっちゃってさー。」
どうやら僕が最初の仲間とやらであったようだ。いやあ、このときの僕ってさ、ほんと紙切れぐらいの強さだったからさ、また不安になったわけだよ。この人、僕の力を過信しすぎてる…ってね。力だよ。19で力だよ。
「で、でもさ、僕ほんとにプログラムちょっと習った程度だからさ、全然力になれないと思うし…もっとすごい人いっぱいいるから…」
さっきはやるよとかね。言ったのにね。
「いや、お前だ。」
ゴーグルごしの目は見えなかったけどさ、整った顔立ちでさ、口をきゅっと結んで真正面に実際にこう言われるとね。メロメロになっちゃうんです。いや、その 気 はないけどね。ただあいつの唇は自慢できるくらい美しいんだよこれが。いや、その 気 はないんだけどね。
こうして、僕らは世界の片隅のマンションの一室で仲間となり、世界に歯向かってゆくのであったー。
つづこうか