へや。
そこからはスローモーションのような世界だった。
サソリ君が飛び、二枚目のディスプレイの映像が揺らぐ。そして三枚目に映ったおっさんの顔が、ゆっくりと右にねじまげられ。
視線が、発射台へと注がれる。
終わった。すべてが。今回発射の音は最大の危機ポイントだった。だいぶ改良したんだけど、それでもまだ音が少しした。最後に神頼みだったんだけど、その頼みはあっけなく無視された。あたりまえだともおもうけど。また警察か。あの二人が今度は違う顔で僕に逢いに来るのか。
ということはなく、いや見たことは見たんだけど、ただ「見た」だけだった。それだけ。何事もなくグラビアのポスターの方を振り返って、ガキに対して行った同様の怒りの表現方法をしてそのポスターを破りさいた。
あいつは、興味深そうに、俺とガキが浮かべる恐れや不安の表情とは全く別物の、言ってみればバルカンを買った時のような顔でそのおっさんの行動を見つめていた。
そして静かに欠けているなと呟いた。
僕は知っての通りビビりなのでおっさんに僕らのやろうとしていることがばれなかったただそれだけですごくホッとしていた。いや、僕だけでなく、ガキも同じ感じだ。いや、だってね、おっさんがガキに対してとった態度、あれは尋常じゃなかったよ。あの一件以来、別に普通を装っていたけれど、内心本気で恐がってたんだよね。ほんとに、もし狙われたら、何をされるか…。
どうしてかサソリ君を部屋に入れる事が成功してしまった興奮でアドレナリンが大量に出始めた。入っちゃったよ。それしか頭になかったし、たぶんそれしか言ってなかったと思う。
だけど本番はここからだった。
おっさんが下へ降りるのを確認して静かに発射台を回収した後、ディスプレイに向き直る。
PS3のコントローラーを握りしめ、これ以上ない真剣な表情で画面をみつめる三人。
どんなゲームしようとしてるんだよ・・・
「よし。行くぞ。」
おーというかけ声で、いっちに、いっちに、と地味にそれぞれがボタンを押して脚をうごかしていく。それに連動して、カメラが映す映像がわずかに揺れる。
そう、地味。ホントに地味な作業だった。ほんのちょっとしか進まない。長い廊下を歩き終えるのに、一体何分かかったことか。
やあっと廊下を抜けてリビングに出ると、白い世界が広がっていた。
「うわっ」
ホテルの一室かと思う部屋だった。生活臭なし。ここも綺麗なんだけど、それとは違った、なんていうか、ただ宿泊するだけの部屋というか、それだけシンプルなものだった。テレビ、机、ベッド。それだけ。床はほこり一つなく、カーテンレースを通した白い光だけを反射していた。壁も張り替えたばかりのような白さ。白い部屋に白い光が差し込んで反射して、夢の中にいるような光景が広がっていた。
つまり、何も、なかった。
ガキの肩から落胆がにじみ出ていた。たぶん僕の肩からも滲み出てたと思う。
「とりあえず登ってみるか。」
部屋全体を見回すには高いとこから見るのが一番いい。ということで、サソリ君の尖った脚を白い壁に刺し込んで、一歩また一歩と高度を上げていく。
これまた高度な技術が必要だった。ただ前に脚を出すんじゃなくて、刺さった脚を抜いて、前に出して、また深く刺し込まなくちゃいけない。僕とあいつはそこそこだったんだけど。
「あ…」
ガキだよな。問題は。あいつは、もう、センスがない。あいつのせいで何回落ちたか。起き上がるのも大変なのに。
よくエベレスト登頂とかで雪山に足を埋めながら一歩一歩進んでいく映像を見るけれど、あの気持ちがひしひしと分かったね。失礼だけどさ。
2メートルほどかな。やっとそこまで登りついた。これには、何時間も、かかった。ガキも、泣きそうだった。
ディスプレイからは部屋全体が見渡せた。なにも飾られていない真っ白な壁の下に、さっき映像に映ったものそれだけが見えていた。
つまんねぇ部屋だ。
「撤収ですね」
おっさんの弱みを握れることもなく。
むしろ清々しいくらい清潔なへやをこれでもかと見せつけられて、逆に感心すら覚えていたところにうーんと言ってあいつが何らかのボタンを押して画面の色が変わった途端壁中に大量の文字が。
つづきます。