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サソリ君。

ここで僕たちがどんな機器を使ってそれをどういう風に利用したかを説明するのはつまらないから省くけど、とりあえず二、三日で盗聴も行動パターンも記録することができるようになった。盗聴はあいつが。何時に出て何時に帰ってくるのかのデータはガキの携帯に送るようにした。僕はなにもせずに計画の方を進めることにした。ちなみにガキにはこの計画については何も言ってない。ここでどんな活動をしてるのというガキのシンプルな問いに対して「世界に歯向かっているのさ」というシンプルで幼稚な答えをあいつは返した。

隣のおっさんは、どうやら朝の7時半に出勤。夜の9時から9時半には自宅に帰ってくるという規則正しい生活を送っているみたいだった。ごみもちゃんと分別して出す。ごみ袋の中身も菓子や酒の類はなく、これといって変わったものも捨てられていなかった。女もなし。盗聴結果は微妙の一言。帰ってからテレビをつけ適当な番組を見て、電気を消して寝る。ただ毎週の土曜日の朝10時にはかならずどこからか電話がかかってきて、そのちょうど3時間後にどこかへと電話をかけているくらいだった。ただ風呂場に行って電話するらしく、内容までは聞き取れなかったらしい。

くそつまらねぇ。

まぁ、怪しいっちゃあ、怪しいんだけど。

「くそつまらねぇ。」

二週間過ぎた火曜日の夜。あいつは僕と同じことを言った。

「どうすんの?」

僕は既に現実を見始めてた。理想の「敵」は存在せず。ただ単に隣に住む人がちょっと変な人だったっていう、単なるそれだけの話。僕の中にはよくわからない疲れみたいなのが体にたまりはじめていたんだ。肝心な僕らの計画もほとんど進まなくなってきた上に、そのゴールへ向かう向上心すらも霧のようなしっかりとつかめないものへと変わっていた。

「もう、そろそろだな。奴の家を探索するか。」

これに賭けるしかなかった。これで普通の部屋だったら…。でもその可能性が一番高いと思った。あいつはどう思ってるのか分からなかったけれど、少なくとも僕とガキはもう、このまま行っても…っていう思いが満ち溢れていた。

僕らの考えた探索とは至ってシンプルなものだった。とにかくコントロールできる視力さえあればいい。

「と、いうことで、サソリ君の登場だ。」

サソリ君は機械のサソリくんで。頭にカメラ。しかも超すごいやつ載せたんだ。金はあるからね。で、脚が8本あるんだけど、これが一本一本コントロールできるようにしたんだよな。馬鹿だよ。あいつ。普通はパソコンの中でモデルを作って一番効率よく歩ける形をパソコンが弾き出してその結果を実物で実際に動かしてみるわけんだけど、あいつ、一本一本をコントロールできるようにしたんだ。動く際にハサミの部分は動かさなくていいとして、残りの6本を、僕達三人がPS3のコントローラーで協力してそれぞれの脚を動かして歩けるように操作しなくちゃいけない。二週間の間、どれだけ…練習したか。ちなみにPS3のやつにしたのはそっちのほうがゲーム性があって習得率があがるからだそう。

「土日はあいつずっと家にこもってるから、平日にしようと思う。と、いうわけでだ。ガキ、学校をズル休みしろ。」

「えー」

「まぁ、一日ならしょうがない」


そして木曜日。実行の日だ。そんな日はあっという間に来る。そんな日はあっという間にすぎる。

「どう、人生で初めてのズル休みは」

「別に」

とかいってばれるかどうか不安なんだろ?汗が顔中に噴き出てるぜ。

がしゃ

朝の7時半ちょっきし。

サソリ君がおっさんの部屋に忍びこめるのはこの瞬間しかなかった。しかし頑張っても僕らがコントロールしてその刹那の間にサソリ君を忍びこませるのはまだリスクが高すぎた。直前まで練習したんだけどね。ひとり操作が下手なやつがいてさ。ため、初回起動時に限って発射台を設けることにした。

おっさんが扉をあけたそのすぐ右に、堂々と発射台がおいてある。隠すこともできないしね。

「えぇ!?ばれるんじゃないの?」

「大丈夫だ。」

ガキと頷き合う。嫌な予感がした。

「あんな生活してたらな、絶対に性欲がたまんだよ。だから扉開けて正面すぐ左にグラビアのポスター貼っとけばいい。くぎ付けになるはずだ。そしたら絶対こっちは見ない。」

この案を聞いた時から、僕とガキはまたも反論する余地なく、しょうがなく納得するしかなかった。あいつは本体を作る前にすでに発射台を作ってたんだ。

「な?お前ら。な?みろよこの発射台。ちょーかっこいいだろ?な?」

たぶん、発射台というものを作りたかっただけなんだと思う。

一枚目のディスプレイごしに、陸上競技でスタート時に足を乗せる器具のようなものが映っており、その上にアルミで光るサソリ君がいた。二枚目にはサソリ君の頭に載せたカメラの映像が、そして三枚目には、でかでかと貼られたグラビアのポスターにくぎ付けになっているおっさんが映し出されていた。

「おっさん…」

しかしこの瞬間が大事だ。行け。

目で互いに合図し、あいつがボタンを押す。

ばん

仕掛けられたバネが陸上競技でスタート時に足を乗せる器具のようなものそれ自体を高速で前に押しだし、その連動でサソリ君が直線に飛ぶ。さぁ開始だ。

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