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10.夏祭りとお別れと…

夏の夜、神社の参道。

提灯の灯りが並ぶ。

屋台の声。人の笑い声。

彩梅は少し緊張していた。

浴衣。紺色。

美桜が笑う。

「似合うじゃん」

彩梅は少し照れる。

「美桜も」

美桜の浴衣は薄い水色。

「ありがと」

二人は並んで歩く。

金魚すくい。りんご飴。焼きそば。

美桜が言う。

「こういうの久しぶり」

彩梅が聞く。

「祭り?」

「うん」

美桜は笑う。

「受験の年はそんな余裕なかったし」

少し間。でもすぐ笑う。

「今はある」

彩梅はその笑顔を見る。

本当に楽しそう。

二人は階段に座る。

神社の境内。遠くで花火の音。

美桜が空を見る。

「綺麗」

彩梅も見る。

「うん」

少し沈黙。

美桜が言う。

「彩梅ちゃん」

「?」

「ここ来てよかった」

彩梅は少し驚く。

「そう?」

美桜は笑う。

「うん」

小さく言う。

「彩梅ちゃんに会えたし」

彩梅は少し顔を赤くする。

美桜は笑う。

そして軽く言う。

「来年も来ようね」

その言葉に彩梅は少しだけ胸が痛くなった。

小さな田舎の駅。

蝉の声。

電車はまだ来ない。

美桜は小さなキャリーケースを持っている。

彩梅は少し離れて立っている。

沈黙。

美桜が笑う。

「なんか」

「?」

「引っ越すみたいだね」

彩梅は何も言えない。

美桜は言う。

「すぐ戻るかもだし」

「……」

「大げさだよ」

彩梅は小さく聞く。

「……いつ」

「?」

「帰るの」

美桜は少し考える。

「分かんない」

「……」

「でも」

少し笑う。

「生きてはいるよ」

彩梅は少し驚く。

美桜は続ける。

「だから」

「?」

「また会える」

電車の音。

遠くから近づく。

美桜は言う。

「彩梅ちゃん」

「?」

「ありがとう」

彩梅は言葉が出ない。

電車が止まる。

美桜は乗る。

ドアが閉まる直前。

美桜が笑う。

いつもの笑顔。

電車が動く。

彩梅は初めて誰かがいなくなる寂しさを知った。



夜、古いマンション。

美桜がドアを開ける。

母が言う。

「遅かったじゃない」

父はテレビを見ている。

「……ただいま」

母は机に書類を置く。

「これ」

「?」

「学校」

パンフレット。専門学校。通信制大学。

母は言う。

「ちゃんと考えなさい」

美桜は小さく言う。

「……うん」

母は続ける。

「もう失敗しないように」

その言葉で

胸が少し痛む。

父が言う。

「一年無駄にしたんだからな」

美桜は黙る。

母は言う。

「いつまでも田舎で遊んでる場合じゃない」

美桜は小さく言う。

「遊んでない」

母はため息。

「だったら何してたの」

美桜は言えない。

工房のこと。彩梅のこと。全部。

父が言う。

「受験落ちたのは自分の責任だろ」

美桜の手が震える。

母は続ける。

「弱いのよあなたは」

その言葉で

頭の中が少し白くなる。

美桜は小さく言う。

「……私」

母は言う。

「言い訳はいらない」

美桜は俯く。

胸の奥であの感覚が少し戻ってくる。

消えたい

でもそのとき。

彩梅の顔が浮かぶ。

神社の夜。卵焼き。工房。

美桜は小さく呟く。

「……まだ」

父が聞く。

「何だ」

美桜は小さく言う。

「まだ死なない」

両親は意味が分からない顔をする。

でも美桜は少しだけ前を向いていた。

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