96話 ユグドラバトル
「全世界1000億人のユグドラバトルファンの皆様お待たせいたしました~! お次は本日第3試合! フロアランク差20・ハンデ無し! まさかの勝ち目ほぼナッシング絶望下剋上タイマンバトルだああああああっ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」」」
「ぜ、絶望って……まあ、ランク的にはそういう紹介にもなるか」
本日のユグドラバトル第1、第2試合が終了し、中休憩を挟んでから俺と郷原くんの第3試合が始まった。
バトルエリア入出ゲートの外から漏れ聞こえる実況と観客の歓声を聞きながら、試合の準備を整える。
っていうか1000億人もいないだろこの世界に。
「ふん……逃げるなら今の内だぜ、和取ィ」
「そっちが試合吹っ掛けて来たんじゃないか」
現在、ユグドラコロシアムのバトルエリア内には俺と試合相手の郷原くん、そして審判役のライザーが二人。
このバトルエリア内はユグドラタワーのフロアと同じで瀕死の重傷を負うと強制的にエリア外に転移し、その日は中に入れなくなる。
エリア内で負った怪我も転移したときに治るので、基本的に救護担当は必要が無い。
審判がいるのは、試合の開始、終了の合図を出したり、エリア外の実況席にジェスチャーで試合の状況を伝える為。
他にも、強制転移で勝敗がつく前に降参したり、お互い最後の一撃で同時に瀕死になって転移したときに、どちらが長くバトルエリアに残っていたかの一瞬を判断する役目もある。
「ここで戦るのにルールも反則もねえ。何をしてでも最後まで立ってた方の勝ちだ。後でピーピー喚くんじゃねえぞ?」
「大丈夫、分かってるさ」
バトルエリアの内部では、フロアにいる時と同じように魔装やユグドラタワー産の武器・防具を装備して行動することが出来る。
逆に言うとそれ以外の武器などは外から持ち込めず、ユグドラタワーに入るときと同じように衣服など以外の持ち込みアイテムは消滅してしまう。
つまりこのバトルエリア内での戦いは、ここで出来る事なら何をしても良いのだ。
まあ、審判を買収して攻撃させるとかはダメだけどね。そんなことしたら外の観客席からバレちゃうけど。
「これよりユグドラバトル第3試合を開始します! 和取ソラ選手、郷原リュウト選手、位置についてください」
審判の指示に従って、バトルエリアの中央で距離を空けて郷原くんと向かい合う。
うーん……悪い顔してるなあ郷原くん。
前にユグドラセンターで俺が投げ飛ばしたこと、めっちゃ根に持ってるんだろうなあ。
「おう和取ィ! ライザー同士の対人戦は外の世界の殴り合いとは違ぇからな!!」
「威勢がいいねえ……」
確かに、以前投げ飛ばした時とは違ってここはユグドラタワーの中みたいなものだ。
外の世界と比べたら身体能力も桁違いに上がるし、ファンタジーチックなタワー産の武器や防具も使用できる。
それに、地下階層のことを知らない人たちからしたら実力の比較はフロアランクで見るわけだし、ランク31の俺と51の郷原くんではあまりに差がありすぎるように映っているだろう。
俺もまあ、現実的に考えたらフルボッコにされて負けるんだろうなあとは思っている。
「でも、なんでだろうな……」
なんか、負ける気がしないんだよな。
「さあ和取選手と郷原選手が戦闘態勢に入りました! ここで皆さんの勝敗予測券の購入データが入ってきていますのでご紹介します! いやーもうほぼほぼ郷原選手の勝利に賭けていますね! この試合、どう見ますか? ゲスト解説は元上級ライザーであり、ユグドラバトルグランプリ初代チャンピオンの古株伊知郎さんです!」
「まー普通に考えれば郷原くんが勝つでしょうなあ。しかし、和取くんはここ最近一気に攻略を進めてフロアランクを上げているライザーですから、ランク以上の実力が発揮される可能性もなきにしもあらずでしょうなあ」
「なるほどなるほど! 非常に興味深い分析です!」
既に装備は済ませ、俺の脚部にはトリアリーコンバット、両手には黒鉄甲の打突旋棍を構えている。
郷原くんも右腕に何か装着してるけど、俺は見たことない武器だ。
まあ、こっちも郷原くんが見たことない奥の手があるけどね……とりあえずまずは、通常装備でどこまでいけるか試したい。
「両者準備は良いですかー? それでは試合……始めっ!!」




