93話 オーガチャンプ
「ここだな……」
第30階層をうろつくベンティオーガを何匹か倒した俺は、フロアボスが待ち構える扉の前にたどり着いた。
やはりオーガ系モンスターが出現する階層のラストフロアということで、通常モンスターも他のフロアより手ごわかったように思う。
それでも魔装変身どころか魔装化も使用せずに討伐できたので、自分自身の実力もかなりついてきたんじゃないだろうか。
「ふぅ~……よし、行くか」
ライザーカードをスキャンして扉を開け、長い通路を歩いていくと、広い戦闘エリアが見えてくる。
そしてそこには、ボディビルの大会にでも出るつもりかってくらい筋肉ムキムキマッチョマンなオーガが待ち構えていた。
「ゴオオオオオオガッガッガッガアアアアアアッ!!」
【オーガチャンプ】
・生息地:第30階層ボスエリア
・ドロップ:フロアキー、緑の魔石、青の魔石、魔装、アンダーチャンプ
「オーガチャンプ……オーガのチャンピオンってことか」
ていうかドロップ可能アイテムに表示されてるアンダーチャンプってなんだ?
アンダーニ〇ジャ的な? いやそれでも意味不明だけど。
「ゴオオオオオオオオガッ!!!!」
「うおっ!? いきなり来やがった!!」
バトルエリアに入った途端、オーガチャンプがものすごい勢いで突っ込んでくる。
第20階層で戦ったゴブリンエンペラーとは違って武器などは持っていないが、額にイッカクみたいな長くて太い角が生えていて、そのまま突撃されるだけでも普通に危ない。
まるでつのドリル……ポケ〇ンだったら約3割の確率で一撃必殺だ。
「ゴオオオオガッガッガッ!!!!」
「この感じ、やっぱイノシークの親玉に似てるな……!」
機動力と攻撃力、そして耐久力も兼ね備えた筋肉装甲のムキムキボディ。
武器代わりの凶悪な一角もかなり危険だ。
下手に武器とか魔法とか使って戦うヤツよりこういう方が俺は苦手かもしれない。
「まあ、弱点もちゃんとあるけどなっ!」
こういうタイプの魔物は動き自体は単純なので、スピードについていけさえすれば回避は可能だ。
しばらく相手の好きなように戦わせて、こっちは最小限の動きで攻撃を見切って回避する。
そうすれば……
「ハア、ハア……ゴ、ッガア……」
「お、さっそく疲労が溜まってきたようだな」
この量のムキムキ筋肉を全力全開で稼働させて戦うタイプは、実はスタミナがあまりない。
それでいて上手い事セーブして戦う能力もないので、最初に動き回らせれば後々グッと戦いやすくなるというわけだ。
「それじゃあ、次はこっちから行かせてもらうぜ……っ!!」
―― ――
「ふっ! はっ!」
ドカッ! ドスッ! バキィッ!
「ゴ、ゴガガガガァ……ッ!?」
スタミナが切れてきたオーガチャンプが防戦一方になり、最小限の回避行動で体力を温存していた俺は怒涛の反撃でチャンプを追い詰める。
それでも急所になるコアの周りはしっかりガードしていて、実力の高さがうかがえる。
「まあ、それももう限界だろうが……なっ!!」
「ゴッ!?」
オーガチャンプがガードの為にクロスした腕を蹴り上げた後、がら空きになった胴体に『黒鉄甲の打突旋棍』の一撃を叩き込んだ。
ドガァッ!! バッキイイイイイイイイイイインッ!!!!!!
「ゴッガァアアアアアアアアアアアアア……ッ!!」
コアを破壊した感触を武器越しに感じながら消滅していくオーガチャンプを眺める。
「はあ、はあ……ふぃ~。まあまあ強かったかな」
モンスター消滅時に発生する白いモヤが少しずつ薄くなる。
するとそこには、第31階層へ行くためのフロアキーと、黒い布切れがドロップされていた。
「今回も魔装はドロップされず、魔石も無しか……まあいいや、この布切れは多分ドロップ確率3割の、オーガチャンプ、専用……素材……」
ドロップされたアイテムを回収した俺の手には、白いフロアキーと、黒い……ブーメランパンツが握られていた。
「……いやボディビル用のパンツやんけ」
あとでエルさんにでも売りつけようかな。