92話 第30階層
「ゴガッガッガ~!!」
「ふんっ!!」
「ガッ!?」
バッキイイイイイイイイン……!!
「ガ、ア……」
…………。
「……ふう。これで第29階層もクリアっと」
ユグドラタワー第29階層のボス部屋で『オーガドルカス』というクワガタみたいなノコギリ刃の付いた2本の長い角を持つオーガを倒した俺は、ドロップされたアイテムを回収してボス部屋を後にする。
トリアリーコンバットも手に入り、かなり立体的に動きながら戦えるようになってきた。
これなら数日後に控えた郷原くんとのユグドラバトルもそれなりに戦えると思う。
「次は、第30階層か……この際だし行っちゃおうかな?」
ここをクリア出来ればフロアランク31、つまり地下3階層のフロアボスに挑めるようになるはずだ。
郷原くんと戦う前に攻略してしまえばキリが良いし、自信にもなる。
「よし、それじゃあオーガ系モンスターのラスボスに挑みに行くとしますか……!!」
俺は先ほどの戦闘で手に入れたフロアキーを握りしめ、気合いを入れ直してリフトへと向かった。
―― ――
ドス、ドス、ドス……
「ゴッガガガァ……」
「なるほど、通常モンスターはアイツか……」
【ベンティオーガ】
・生息地:第30階層
・ドロップ:フロアキー、緑の魔石、青の魔石、暴鬼の巨角
「スタバのカップサイズみたいな名前だな」
第30階層のフロアに響くドシン、ドシンという足音の正体は、天井に頭が付きそうなくらい巨大なオーガだった。
というかかなり猫背の状態で移動しているので、まっすぐ立ったら頭をぶつけてしまうのかもしれない。
「デカい系かあ……こういうのってスピードは無いけど頑丈なんだよな……」
俺は基本的に素早く動いてヒットアンドアウェイで戦うスタイルなので、耐久力の高い相手の場合は向こうの攻撃を躱しつつひたすら同じポイントにこちらの攻撃を当ててコアを破壊する感じになってくる。
ヴェノムイーターになってしまえばワンパンも難しくないが、魔装変身をすると急激な体力の消耗以外に他の装備が使えないというデメリットもある。
余力を考えなくていいボス戦とかなら良いけど、ベンティオーガはこのフロアの通常モンスターだ。
今はトリアリーコンバットと黒鉄甲の打突旋棍を使いこなして戦おう。
「そういえば、水上や壁面を歩けるならデカいモンスターもいけるんじゃ……? ちょっと試してみるか」
俺はドスドスと足音を立てながらフロアを徘徊するベンティオーガに背後から接近し、えいやっと背中に飛び乗った。
ぺたっ。
「ゴガ?」
「おお、足裏が背中にピタッとフィット……」
「ゴガッ!? ゴッガアアアアアアアアアッ!!」
「うわっ!? おっとぉっ!!」
背中ではしゃぐ俺の存在に気付いたベンティオーガが振り落とそうと暴れ出す。
まあくっ付かれてる方は普通に気持ち悪いよな。
「それじゃあ、倒すか」
巨大なモンスターの背中を直角に歩き回るという何とも言えない体験をした俺は、気持ちを切り替えて足元の背中を思い切りぶん殴った。
ドガッ!! バキッ!!
「ゴッ!? ガアアアアアアアア!!!!」
「おっと!」
振り落とされないようにバランスを取りながら、ベンティオーガの攻撃が届かない背中にくっ付いたままひたすら攻撃を入れる。
うーん、我ながら卑怯な作戦だ。
「せーのっ! ふんっ!!!!」
バッキイイイイイイイイイイイイインッ!!!!!!
「ゴッガァ…………ッ!!」
…………。
「背中飛び乗りからのひたすら打撃作戦、成功!」
トリアリーコンバットのどこでも歩ける効果、めちゃめちゃえげつないな……




