83話 増殖
「ゴガッガッガッガ!!」
「ふんっ!!」
「ゴガッ!?」
バッキイイイイイイイイイイン……!!
「ゴ、ガァ……」
「ふう、討伐完了っと」
ユグドラタワー第21階層フロアボス、オーガトレーニー。
まあ、強さでいうとイノシークとレッドイノシークの間くらいと言ったところだろうか。
つまり、今の俺ならそれなりに余裕で倒せてしまうということだ。
「しばらくは楽に攻略できそうだな」
消滅したオーガトレーニーからドロップされた魔石とフロアキーを拾ってボス部屋の出口へと向かう。
こういう『攻撃力そこそこ、防御まあまあ、素早さ低め』みたいなタイプは俺の能力と戦闘スタイルであればかなり有利に戦えるので、ゴブリン系よりもやりやすいかもしれない。
逆にゴブリン系が得意だったライザーにとっては第21~30階層は苦戦する可能性が高いかも。
「コハルさんみたいな武術戦闘タイプもオーガ系の方が戦いやすいかもな。逆にエルさんは魔法使いタイプだからどうなんだろう」
ユグドラタワーの中では、外の世界と違っていわゆる魔法のような攻撃をすることが出来る。
もちろん何もなしにオリジナルの呪文を唱えてどうこうということではなく、エルさんがクラフターに作ってもらった『卑帝の魔杖』のような武器が必要になる。
そのうえ魔法を発動するにはMP消費ってわけではないけど、眼精疲労とか脳疲労みたいな種類の疲れも溜まるということで、魔法系の武器を扱うにはそれなりに才能というか、向き不向きがある……ってさっき会ったエルさんが言ってた。
「まあ、俺にはそういう細かいのは向いてないだろうな」
魔装変身! ドッカーン! バッキーン! よっしゃー勝った! みたいな方がシンプルで良いよね。いや良くはないか。
―― ――
「なんだかこっちに来るのも久しぶりな感じだな」
しばらく地上階層の攻略を進め、現在第26階層まで攻略済みになったところで再び地下3階層の攻略を再開する。
ちなみに今の所1番手こずったのは『オーガジェームズ』という第24階層のフロアボスで、まあ簡単に言うと腕が4本あるオーガだった。
普通のオーガの感覚で攻撃すると予想してない所から腕が出てきてガードされたり攻撃されたりするので、慣れるのに時間がかかった。
「ヴェノムイーターも腕が4本になったらもっと強く……いや、腕4本って逆に動かし方が複雑になって面倒かもな」
今の自分には2本しか腕が無いので、4本腕を動かすという感覚が分からない。
まあでもヴェノムイーター状態になったときに出現する尻尾はそれなりに自由に動かせるので、生えたら生えたで便利に使えるかもしれない。
「とりあえずまずは、ラビンヘッド族の住処に行かないとな」
この地下3階層に出現するアリゲーマンというモンスターは、基本的には水場付近に隠れ潜んでラビンヘッド族を捕食するときにしか飛び出してこない。
そのため、ラビンヘッド族のダッチーを囮として同行させながらアリゲーマンを討伐していく必要がある。
「う、うう……このままではアタイたちのお家がピンチぴょん……」
「あっいたいた。おーいダッチー!」
「えっ? あ、あー! ソラぴょおおおおんっ!」
「お、おう。どうしたどうした」
俺を見つけたダッチーが泣きながら走り寄って来る。
相変わらずテーマパークにいそうなウサギの着ぐるみみたいな面白い……じゃなくて可愛らしい見た目だけど、囮作戦に付き合ってくれるくらい良いヤツだ。
「な、なんでしばらく来なかったぴょん! 寂しかったぴょん!」
「ちょっと上の階層の攻略が忙しくて……」
「い、言い訳は聞きたくないぴょん!」
「いや面倒くさい彼女かよ」
まあ、彼女いないからこれが面倒くさいに入るのかどうか分かんないけど。
「ソ、ソラがしばらく来なかった間にアリゲーマンが増えちゃったぴょん!」
「……えっ?」
「せ、せっかく倒した分が元通りぴょん! さあ、また一緒に狩りに行くぴょん!」
もしかして、しばらく地上階層行っててこっちに来なかった間に増殖した……?
じゃあ、地下階層の攻略始めたらぶっ続けで狩りまくってフロアボス手前まで行っちゃった方が良かったってことか?
「おいおいおいそりゃないぜ相棒~」
「ア、アタイは悪くないぴょん! 会いに来てくれなかったソラのせいぴょん!」
これ、俺が悪いんすかね……教えて恋愛マスター。