80話 タウンエリアの喫茶店
「ふう、美味しい……気がする」
ここ数日ユグドラタワーの地下3階層でひたすらアリゲーマン狩りを続けていた俺は、ちょっと気分転換でもしようと思って第21階層のタウンエリアへと足を運んでいた。
「きゃくじん、それウマイか?」
「ああ、うん。美味しいよ」
「そーかそーか。なんたってゆーきさいばいだからな」
「有機栽培の意味分かってる?」
「ゆーき、リンリンだからな」
「アンパ〇マンだよそれ」
第21階層のタウンエリアには、なんと喫茶店のようなものが存在する。
中に入ると魔石と交換でコーヒー(のようなもの)を飲めたり、クッキー(のようなもの)が食べられたりするのだ。
これは第11階層のタウンエリアには無かったタイプのお店なので、ここの料理が味わえるのは中級ライザーになった者の特権みたいな感じだ。
おそらく地下階層でフェーンが食べさせてくれたイノシー料理のような感じで、ユグドラタワーの外に出たら体内から消滅してしまうのだが、タワーの中にいる間は飲み食いした感じが消えずに残っているので中々良いシステムだと思う。
ちなみに俺が今飲んでいるのは『カつェテテ』という、なんというか、日本語があまり得意じゃない店主が書いたメニュー表に載ってそうなカフェラテっぽいホットドリンク。
でも結構美味い。
「地下階層の素材は交換レートが結構良いんだよな」
タウンエリアでクラフターに何か作製依頼をするときや、こうやって料理を出してもらう場合はお金代わりに魔石を渡す。
魔石はモンスターを倒してドロップする以外にも、ライザー同士で素材提供の対価として交換したり、タウンエリアで素材買取りをしてる換金ならぬ換魔石クラフターが素材と魔石を交換してくれる。
今のところ換魔石クラフターの交換レートでいうと、地下3階層のアリゲーマンからドロップできる『鰐心鈹』という素材が1番換魔石率が良い。
……まあ、換魔石率なんて言葉はここでしか使わないのだが。
「そういえば、今持ってる素材で何か作れたりしないかな」
ブラックジェットローチからドロップした素材で武器を作ってもらって以降、俺はクラフターに武器や防具の作製を依頼していなかった。
実は地下2階層のイノシークたちからドロップした素材は、前に色々あってオリジナル武器を作ることになったマリーに素材提供しちゃったんだよね。
「今インベントリにあるのは、鰐心鈹の他にスライムの素材とゴブリンチップ……あとは魔石が各種類いくつか」
正直、魔装変身でヴェノムイーター状態になってしまえば実質的には全身防具&全身武器みたいな感じなので、新しく装備アイテムを作る必要性を感じていないんだよな。
「うーん、また今度で良いかなあ……」
「おやおやおや? そこにいるのはソラ氏ではあ~りませんか~」
「チャーリーさんかよ」
喫茶店に入ってきた女性ライザーのお客さんが、俺を見つけてとてちてと近づいてくる。
桜ヶ丘コハルさんのライザー仲間の梅雨川エルさんだ。
相変わらず魔法学校の生徒みたいな恰好をしていて、この人が近くにいるだけでファンタジー感が2割増しくらいになった気分。
「おまえ、なにたのむ?」
「あ、梅雨川はグレネードで。支払いはこの人持ちで~」
「おい」
っていうか何だその手榴弾みたいな名前の飲み物。
爆弾酒とかそういう類のやつか?
「そういえば見てくださいよソラ氏~! 遂に『卑帝の魔杖』が完成したんですよ~!」
「おお、前に素材提供したやつか」
「そうですそうです。その節は本当にもう感謝しかなくて~。お礼にこの後モーテルで」
「そのネタはもういいから」