78話 ダッチー囮作戦
「さ、さあソラ! アリゲーマンを倒しにレッツゴーぴょん!」
「あ、ああ……」
ユグドラタワーの地下3階層の攻略を開始した翌日。
俺はラビンヘッド族のダッチーと一緒に湿原エリアをうろついていた。
「な、なあダッチー。この首輪とリード付けるのはやめないか? なんかその……良くないと思う」
「こ、これが無いとアタイの回避が間に合わないかもしれないぴょん!」
結局、俺一人で地下3階層のフロアをウロウロしていてもアリゲーマンと遭遇することが出来ず、このままでは埒が明かないということで、アリゲーマンの捕食対象であるラビンヘッド族を囮にしておびき出す作戦を試すことになった。
そんでもって囮役のダッチーはというと、現在リードと首輪を装着して俺に手綱を握られ、少し離れた前方を歩いている。
この状態でアリゲーマンがダッチーに襲いかかってきたら俺がリードを引っ張ってダッチーを引き寄せ、食われるのを回避するのと入れ替わりに俺が飛び出してアリゲーマンを討伐する……という流れだ。
ちなみにこの首輪とリードはアリゲーマンの死骸などを素材にして作ったらしい。SDGsだね。
「いやでもなあ、なんというか……」
「は、背徳感ぴょん?」
「どっちかっていうと罪悪感だよ」
見た目はそれなりに可愛らしいウサギのマスコットであるダッチーに首輪とリードを付けて歩かせているというのは、ちょっとよろしくない雰囲気を感じる。
まあ、この階層には俺しかライザーがいないからなんでも良いっちゃ良いのだけれど。
「ソ、ソラ! アリゲーマンが襲いかかってきたらちゃんと引っ張るぴょんよ! 噛ませて釣り上げる作戦ではないぴょんからね!」
「分かった分かった」
足元の悪い湿った土草を踏みしめながらアリゲーマンが潜んでいそうな辺りを探して歩いていく。
ちなみに今の俺の状態は、両足を魔装化でヴェノムイーター状態にして、トンファー型の武器『黒鉄甲の打突旋棍』を腰に下げ、左手でダッチーに付けたリードを持っている。
やはりドロドロの湿地帯で機動力を確保するには足元を魔装化してしまうのが1番良いと考え、実際とても歩きやすい。
「あっ!」
「どうしたダッチー! アリゲーマンか!?」
「こ、この草は美味しいやつぴょん!」
「こんな時に道草食うなって!」
湿原に生えていた雑草を毟りだす能天気なダッチー。しかしその時……
ガサガサガサッ!!
「むしゃむしゃむしゃ……ぴょん?」
「ガービガビガビィイイイイイイイイイッ!!」
「ぴょおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!?」
茂みから飛び出してくるアリゲーマンと、それを見て草を口いっぱいに頬張りながら飛び上がるダッチー。
なんかもう、ギャグマンガである。
「危ないっ!」
「ソ、ソラ助けてぴょおおグエッ!?」
「あっ悪い……って汚いなおい!」
事前の作戦通り首輪に付けられたリードを思い切り手繰ってアリゲーマンの元から引き離すと、首を絞められたダッチーが口から草をまき散らしながら俺の元へ飛び込んできた。
「おっおげえええええ……苦しいぴょん……」
「お前もう草食うな」
「ガ、ガビガビ……?」
「お前は今から倒す」
結局この後、道草を食うダッチーからのアリゲーマン襲撃からの討伐という流れを何回か続け、首を引っ張られまくったダッチーがグロッキーになってしまったので、首輪から胴体用のハーネスに変更することになった。
作戦自体は結構うまくいって、それなりの数のアリゲーマンを倒すことが出来た。
「はあ、はあ……ソ、ソラ。やっぱり首輪に戻すぴょん。ハーネスで引っ張られても刺激が足りないぴょん」
「知らないよそんなの。吐き癖つく前にやめとけ」