74話 ラビンヘッド族
「に、人間さんよく来たぴょん! アタイは『ラビンヘッド族』のダッチーだぴょん!」
「ラビンヘッド族……」
ダッチーと名乗ったウサギの着ぐるみみたいな女の子は、自らをこの階層に住むラビンヘッド族だと紹介した。
今まで着用していたリアルなワニの着ぐるみに関しては、天敵から身を守るための変装ということらしい。
なんなら今の素顔の方が着ぐるみ感あるけど。
「俺の名前はソラ、よろしくね。えっと……ダッチーが着てたその化けの皮というか、バケモノの皮はどうやって作ったんだ? 随分リアルな気がするけど」
「こ、これは『アリゲーマン』の死骸を加工して作ったぴょん!」
「し、死骸? アリゲーマン?」
「ア、アリゲーマンはアタイたちラビンヘッド族の天敵ぴょん!」
「天敵の皮を被ってんのかよ……」
ラビンヘッド族はこの階層ではモンスターに捕食される側のようだが、そう思わせておいて意外とぶっ飛んでるのかもしれない。
まあでも、敵のアジトに潜入するのにまずは見張りを倒して装備を奪って変装するのとか定石だしな。
ちなみにこの『アリゲーマン』の死骸というのはダッチーたちが倒したわけではなく、何らかの原因で死んだものを回収して加工しているらしい。
そりゃそうか、自分たちで倒せるなら天敵も何もないわな。
「なるほど、ということはそのアリゲーマンっていうのがこの階層の討伐対象ってわけか」
ダッチーが着てたやつがアリゲーマンだということは、相手はワニ型のモンスターで間違いないだろう。
まあ沼と湿地帯が多くを占めるフロアなので、そういったモンスターがいそうではある。
「あ、あっちの陸地にアタイたちのお家があるぴょん! ソラの靴とか洗って乾かすぴょん!」
「お、それは助かる。ありがとう」
「こ、この階層に来ることが出来る人間さんは、アリゲーマンより強いって言い伝えがあったりなかったりするぴょん! お、恩を売って天敵を倒してもらうぴょん!」
「ダッチーは明け透けな性格なんだね」
―― ――
おどおどしつつも元気いっぱいという不思議なテンションのダッチーの案内で、彼女たちの住処があるという近くの陸地を目指して湿地の中を歩いていく。
基本的に陸地から下りて湿地帯を移動するときはこのリアルなアリゲーマン着ぐるみで変装するらしい。
今は俺が一緒にいるからか、普段の格好だけど。
「こ、このアリゲーマン皮は通気性が最悪で蒸れるからあんまり着たくはないぴょん」
「ちなみにそのアリゲーマンってのは、どんな見た目なんだ?」
「こ、こんな見た目ぴょん」
「いやまあ、そりゃそうなんだけどさ」
手に持っているアリゲーマン衣装を広げてドヤ顔をするダッチー。
うん、本物だもんねこれ。まさにこんな見た目だよね。
「で、でも本物はもっと大きいぴょん。ラビンヘッド族はアリゲーマンより小さいから、これはかなり調整してあるぴょん」
「なるほどね」
ダッチーの身長は俺の妹たちと同じくらい。
アリゲーマンとやらがどれくらい大きいのか分からないが、このワニ頭の大きさからすると2メートルくらいか……?
近くの湿原に潜んでるかもしれないし、少し注意して進もう。
「あっソラ、そ、そっちは深くなってるから気を付けるぴょん」
「分かった。ありがとうダッチー」
ぱっと見て俺には他の場所と変わらないような気がするが、ダッチーによるとこの辺りの湿原エリアにはたまに深い場所があるらしい。
「こういうところにアリゲーマンが隠れてたりしてね」
「あっはっは! そ、そんなバッタリ遭遇したりしないぴょん!」
「さすがにそうだよねー」
ザッバアアアアアアアアアアアアアアン!!
「ガービガビガビガビ!!!!」
「「うわああああああああああっ!? で、でたあああああああああっ!!」」
ダッチーが指差していた深い湿地からいきなり二足歩行の巨大なワニが飛び出してきた。
「ア、アリゲーマンが出たぴょん~!!!!」
「余計なフラグは立てるもんじゃないねほんとっ!!」