71話 お礼のアイテム
「ソラ、ついにイノシーク達を殲滅したのですね……これで私たちの集落に平穏が戻ります。本当にありがとう……!」
「まあ、イノシーたちにとってはまた食われ続ける日々が戻ってきたわけだけど」
オリジンイノシークを倒した俺はフェーンたちが暮らすエルハイド族の集落へと戻り、イノシークの親玉を倒したことを報告する。
集落にはまだまだイノシークに襲われた時のダメージが残っているが、みんなで少しずつ修復して立て直しているみたいだ。
俺が地下2階層に来たときからこんな状態だったので、しばらくしたらまた様子を見に来てみよう。
きっと、賑やかなエルハイド族の暮らしが見られるかもしれない。
「ソラ、これは私たちからのお礼です。どうぞ受け取ってください」
「これは……?」
フェーンから植物の種のようなものを1粒受け取る。
地下1階層でパモチに作ってもらった魔装の種に似てるな……あの時は性格診断みたいなのやらされて意味不明だったな。
「ソラが身に着けている、その指輪……魔装ヴェノムイーターを更にパワーアップさせることができます。パワーアップというか『使い勝手が良くなる』が正しいかな」
「魔装の使い勝手が良くなる……」
「その種を指輪に当ててみてください」
貰った種をフェーンに言われるがまま、魔装に魔石を食わせていた時のように指輪に触れさせる。
すると、指輪の中にゆっくりと沈み込むように種が吸収されていき、最終的には指輪の中に完全に取り込まれてしまった。
「効果を発揮するまで半日程かかると思います」
「分かった。いや、なんかよく分からないけどありがとう」
「ソラの今後の活躍を期待していますよ」
「そのセリフはなんか不採用のお祈りメールみたいで嫌なんだけど」
俺はちょっとだけ心にダメージを受けつつ、攻略を完了した地下2階層を後にした。
―― ――
「さてと……それじゃあさっそく行きますか、地下3階層へ!」
オリジンイノシークを倒し、ユグドラタワー地下2階層の攻略を完了した翌日。
俺は新たに行けるようになった地下3階層へと向かうべく、気合十分にタワーのゲートをくぐり抜けた。
「そういえば、昨日フェーンに貰った種の効果が出てる頃かな?」
効果を発揮するまで半日かかると言っていた通り、昨日ライザーカードで魔装を確認してみたときには追加効果など、特になにも変化は起きていなかった。
「攻略に入る前に、一応確認しておくか……」
【魔装ヴェノムイーター】
・起動状態:開花
・入手条件:地下1階層に到達し、ピクシード族と接触する。
・装備効果:身体能力向上、貫通力強化、魔装変身、魔装化
「えーと、何か……あっなんか付いてるな。魔装化か……魔装化? なんだそれ」
ライザーカードのスキャン機能で魔装を確認したところ、装備効果の項目に『魔装化』というものが新しく追加されていた。
魔装変身とは何か違うのだろうか。
「もしかして俺自体が魔装になっちゃうとかじゃないよな……」
ファンタジー作品だと転生して剣になったり自販機になったりするのが流行ってるしな。
魔装になって美少女ライザーに使われる、そんな運命も悪くは……
「いや悪いだろ」
ユグドラタワーで活動するライザーの男女比率を考えると、おっさんライザーに拾われて酷使される可能性の方が高い気がする。
「とりあえず、発動してみない事にはなんとも言えないしな……ちょっと試してみるか」
どうしよう、フェーンから貰ったアイテムを使ったわけだし、彼女に魔装化の使い方を聞いた方が良いかもしれない。
でも魔装変身のときは胸に手を当てて叫ぶだけだったし、1回それでやってみるか?
「えー、こほん……魔装化っ!!」
……。
…………。
「なんも起きないんかい」
魔装化の正しい使用方法を教えてもらうため、俺は地下3階層へ向かう前にフェーン先生に会いに行くことにした。