70話 オリジンイノシーク
「ブッヒヒヒヒィ!」
「おっと!」
オリジンイノシーク戦が始まってしばらく時間が経過した。
最初はお互いに小技を出して実力を見つつ、次第に本気の殴り合いに移行していく。
オリジンイノシークは攻撃に特化したレッドイノシークと防御に特化したインディゴイノシークを足して、更にスピードもアップさせたような……つまり、シンプルに身体能力が高い。
やはり親玉というべきか、何度か腹部に打撃を与えてはいるが、コアを破壊するには至っていない。
「おらぁっ!!」
「ブヒッ!!」
「くっそーすばしっこいなあ」
力を込めた大きな一撃がくるのを察すると素早く身を引いて距離を取り、こちらの隙を狙って突撃してくるオリジンイノシークの戦闘スタイルはなんというか、俺の戦い方と少し似ていてかなりやりにくい。
ちなみに彼が手に持っている杖はゴブリンエンペラーと違って魔法攻撃のようなことが出来るわけではなく、いわゆる杖術……武術道具としての杖みたいだ。
手ごろな長さで突くも良し、殴るも良しの優秀な武器である。
「やっぱ地下階層のボスだけあって、ゴブリンエンペラーよりも全然強いな……今のままじゃ勝てないか」
戦いが始まった時よりは消耗しているとは思うけど、それはお互い様だ。
なるべく頼らないようにと考えていたが、決定打を与えるにはやはりこの方法を使うしかないだろう。
「相手よりも原始的な戦い方になっちまうかもな……いくぞっ! 〝魔装変身〟!!」
『カモン! マソウチェエエエエンジ!!』
「ブヒッ!?」
ギュイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!
『マソウチェンジ! コォンプリイイイイイツッ!!』
「……待たせたナ。さあ、戦いを続けようカ」
―― ――
「ブッヒッヒィ!!」
「遅イ」
ザシュッ!!!!
「ブッヒィィッ……!?」
杖を構えてこちらに向かってきたオリジンイノシークの攻撃を難なく躱し、ヴェノムイーターの巨大なカギ爪で杖を持った腕ごと切り落とす。
目の前には、杖を両手で構えた状態で地面に落ちているオリジンイノシークの腕と、それを呆然と見下ろす腕の持ち主。
さっきまでの接戦がまるで嘘だったかのように、明確に戦闘力に差が出ていた。
勿論、今までの俺が手加減していたなんてことはない。魔装変身した今の状態が強すぎるのだ。
「じゃあ、これで終わりにするカ」
「ブヒッ……ブ、ブッヒイイイイイイイ!!」
腕を失ったオリジンイノシークが、それでも一撃加えようと頭突きの態勢でこちらに突撃してくる。
しかし、ヴェノムイーターには届かない。
「ブッヒヒイイイイイイイイイッ!!!!!!」
「……フンッ!」
ドシュッ!!!!!! バッキイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!!!
「…………ブ、ヒ?」
「じゃあナ。中々楽しいバトルだっタ」
「ブ……ヒ…………」
…………。
「……ふう。これで討伐完了だ」
消滅していくオリジンイノシークを見ながら、魔装変身を解いて元の姿に戻る。
今回は決定打を与える為の短い時間しか変身していなかったので、普段よりも疲れは出ていない気がする。
この戦い方ならもう一戦くらい大丈夫そうだし、だいぶ効率が良いのかもしれない。
「ん? この琥珀みたいなのって、杖に付いてた……」
消滅したオリジンイノシークの跡には、地下3階層へと向かうための黒いフロアキーと、巨大な緑の魔石、そしてオリジンイノシークが持っていた杖の頭に付けられていた黄褐色の丸い結晶が残されていた。
丸い結晶をよく観察してみると、透明で頑丈なガラス玉の中に蜂蜜のようなドロッとした黄色い液体が入っているというもので、おそらくこれはクイーン・ブラックジェットローチを倒した時に手に入れた『血肉結晶』というものだろう。
「きっとこれを拾わないでボス部屋に残しておいたら、その内またイノシーがイノシークになってエルハイド族の集落を襲うんだろうな……」
地下1階層でピクシード族のパモチが言っていたことを思い出す。
この『血肉結晶』というアイテムは、使用することで地下階層のフロアを攻略前の状態に戻すことができるのだろう。
たしかに再びイノシーク狩りができるなら、良質な緑の魔石も手に入るからな……まあ、でも。
「フェーンに怒られそうだから、やめとこう」
俺はドロップしたアイテムを全て回収して『鬼猪王の岩窟』を後にした。