69話 鬼猪王の岩窟
「ソラ、いよいよ最終決戦に挑むんですね」
「ああ。イノシークの親玉をやっつけてくるよ」
先日、第20階層のゴブリンエンペラーを討伐した俺は、フロアランク21になって地下2階層のボス部屋に入るための条件を達成した。
捕らわれていたエルハイド族を助け出したことで集落にも活気が戻り、フェーンも両親と暮らすことが出来るようになった。
「私たちのみならず、娘まで助けていただきありがとうございます……」
「このご恩は一生忘れません。たとえあなたが完全にバケモノに身を乗っ取られても……」
「いやあの姿は別に暴走してたわけじゃないんで」
イノシークの根城に捕らわれていたフェーンの両親は、俺があそこで魔装変身して戦った姿を暴走モード的なやつだと思っていたらしい。
今のところは俺の中に封印されてる内なる感情が暴走したり、もう一人の俺が身体を乗っ取ったりする兆候はないから大丈夫だと思う。
ていうかもしそんな事になったら俺に魔装をくれたピクシード族のパモチがラスボスだろ。
「イノシークは、我々がイノシーをただの食糧として粗雑に扱ってきたことに対する戒めとして生み出されたのでしょう……これからは生きとし生けるモノすべてに感謝をささげ、ありがたく食い殺していこうと思います」
「もう少し表現をマイルドにできませんか」
―― ――
「ふう……よし、到着だ」
岩山エリアの頂上まで再びたどり着いた俺は、大きな石で入り口を塞がれた岩小屋の前に立ってライザーカードをスキャンする。
【鬼猪王の岩窟】
・解放状況:挑戦可能
・解放条件:フロアランク21を達成する
「無事に解放されたみたいだな。それじゃあいっちょ、挑戦してきますか……イノシークの親玉に」
フロアランク21になったライザーカードをかざしてボス部屋が解放されると、ゴゴゴゴゴ……と音を立てて入り口を塞いでいた巨大な石がひとりでに動き出す。
「この中に入っていけばいいのか……?」
隙間が出来た岩小屋の中に入ると、下へと続く石の階段が現れる。
この岩山の頂上まで周りの崖を登ってやってきたが、イノシークの親玉がいるのは山の内部ということだろう。
そのまましばらく足元の悪い階段を降りていった先には、いつものボス戦エリアが広がっていた。
「ブッヒヒヒイ……」
「おまえが、イノシークの親玉か」
ボス部屋の奥には、通常のイノシークを一回り大きくしたようなイノシシ頭のモンスターが胡坐をかいて座っている。
前に戦ったレッドイノシークやインディゴイノシークよりも小さいかもしれない。
なんだか少し拍子抜けだ。
【オリジンイノシーク】
・生息地:地下2階層ボスエリア
・ドロップ:フロアキー、緑の魔石、鬼猪王の血肉結晶
「オリジン、イノシーク……」
見た目は普通のイノシークとほとんど変わらず『ボスにしては特徴が無いな……』と思ったが、オリジンと聞くとむしろスタンダードな見た目だからこそ強そうだなと思ってしまう。
唯一他のイノシークと違う点といえば、左手にゴブリンエンペラーが装備していたような杖を持っているという所だろうか。
杖の頭には黄褐色の丸い結晶が付いていた。
もしかしたらあの杖がイノシーをイノシークに変える道具なのかもしれない。
「それじゃあ、お前を倒してその杖も破壊させてもらおうかな……いくぞっ!!」
「ブッヒブヒヒイ……!!」
こちらを警戒して臨戦態勢となったオリジンイノシークを視界に捉えつつ、インベントリから『黒鉄甲の打突旋棍』を取り出して両手に構えた俺は、ボスエリア中央に向かって一直線に駆け出した。