67話 八つ当たり
「いや~助かりましたソラ氏~! それじゃあこの後は梅雨川と一緒にモーテルでしっぽりと~」
「もういいってそのネタは。ごはん奢ってもらうって話で終わったんだから」
素材欲しさに今にも服を脱ぎだしそうなくらい必死なエルさんと、巻き添えで服を脱がされそうになっていた可哀想なコハルさんに根負けした俺は、彼女にレア素材『卑帝の巻角』を提供して無事に武器の作製依頼をすることが出来た。
二人とも今日のライザー活動はこれで終了という事だったので、一緒にタワーを出てユグドラセンターにあるレストランで夕食をいただくことに。
「もう、エルってば本当に……ユグドラタワー内の取り引きは外の世界に持ち出しちゃダメなんだからね」
「わ、分かってますよ~。ちょ~っと今回はどうしても欲しい武器と魔石の貯金が無かっただけで~」
「ソラさんもです! ごはん奢ってもらうだけで貴重な素材をあげちゃうなんて……」
「な、なんかごめん」
「まあ、私も同じなのでソラさんの事をどうこう言えないんですけど」
ユグドラタワーで手に入れたアイテムの取り引きは、タワーの内部で完結するべし……これがライザー活動をするうえでの基本的なルールのひとつだ。
つまり、タワー内の素材提供を後々外部でリアルマネートレードしたり体を売って貰ったりしてはいけないよってこと。
この辺り特に法律で決まっているとかではないのだが、ユグドラタワーが出現してからの10年間で色々トラブルがあったということだろう。
タワーの内部には取引の契約書なんかも持ち込めないわけで、アイテムを渡した後にタワーの外に出たら知らぬ存ぜぬで踏み倒される可能性だってあるしね。
「俺、ユグドラセンターのレストランってほとんど行ったことないや」
「3階にあるオムライス屋さんがとっても美味ですよ~。オムレツがフワトロなのはもちろん、中のチキンライスが他のオムライス屋とは一線を画す出来でして~」
「へーそうなんだ」
エルさん、ホグ〇ーツに入学したてのハー〇イオニーみたいな見た目のわりに下ネタ多いなこの人って思ってたけど、オムライス好きとかちょっと可愛いな。
「私は2階にあるステーキハウスをおすすめします! やっぱライザー活動で汗を流した後はガッツリお肉ですよ!」
「コハルさんってそういうとこあるよね」
「そうですね~」
「なんですか? そういうとこって」
そんな感じで和気あいあいとユグドラセンターのレストラン街に向かっていた時だった。
「ずいぶん楽しそうじゃねえか、和取ィ……」
「えっ? あ……郷原、くん」
聞き覚えのある不機嫌そうな声に振り向くと、同期の郷原リュウトくんが声と同じく不機嫌丸出しの顔でこちらを睨んでいた。
な、なんなんだ……?
「なんか……どうしたの? 体調悪そうだけど」
「ちょっと和取先輩! リュウト先輩は最近ユグドラバトルで負け越してて機嫌が悪いんだ! 言葉に気を付けてくださいっすよ!」
「少し黙ってろギン!」
「す、すいませんっす!」
隣にいた後輩の越野ギンくんが理不尽に怒鳴られる。
っていうかいたんだ……腰巾着ムーブが日に日に上がってて気づかなかった。
「なんだ? 女を二人も侍らせやがって。良い御身分だなあ和取ィ」
「侍らせてって、そんな言い方……俺が第20階層を攻略したお祝いに、友達がごはん奢ってくれるってだけだよ」
実際は素材提供の代金的な感じなんだけど、まあその辺は誤魔化しておこう。
「和取が第20階層攻略だと……? それじゃあお前、中級ライザーになったってことか」
「そ、そうだけど」
「そうか……それじゃあ、お前もユグドラバトルが出来るようになったってことだな……そうか、そうかあ……クックック」
「ユグドラ、バトル……」
ユグドラタワーの横にあるドーム状の施設、ユグドラコロシアム。
そこで行われている『ユグドラバトル』と呼ばれるライザー同士の戦いは、この世界のスポーツ競技や格闘技のように近年盛り上がりを見せている。
そしてその参加条件が、フロアランク21以上になったライザー……つまり中級ライザー以上というわけだ。
「……和取、ユグドラコロシアムに来いよ。オレ様が叩きのめしてやるからよ!!」
「あっ待ってくださいよリュウト先輩~!」
…………。
「う、うわあ……ソラさん、大丈夫ですか?」
「なんか面倒くさいのに目つけられてますね~」
「いやもう、本当にね」
とりあえず今日は郷原くんのことはさっさと忘れて美味しいごはんでも食べよう。
「ソラさんはステーキハウスとオムライス屋さん、どっちが良いですか? やっぱお肉ですよねお肉?」
「ここでオムライスを選べば梅雨川ルート確定ですよ~」
「出会った初日にルート確定とかさすがにチョロすぎるだろ」
俺は間を取ってステーキとオムライスどっちも食べられるハンバーグ屋さんを選んだ。
エルさんからは『甲斐性ないですね~』とか言われた。




