52話 阿吽
「あそこだな」
イノシークを倒しながら岩山の中を進んでいくと、岩の屋根と地面の間に太い木の棒がはめ込まれ、檻のようになっている空間を見つけた。
中には数人のエルハイド族が入れられていて、檻の前には大きな赤と青のイノシークが一人ずつ立っている。
「レッドイノシークとインディゴイノシークか……でも他の個体より一回りデカいな。中ボスってやつか?」
金棒のような武器を構えて檻の左右で仁王立ちしているその姿は、まさに金剛力士像……まあ、顔はブタなんだけど。
「……ん? あの二人、なんとなくフェーンの面影があるような……もしかして両親か?」
檻の中に捕らえられているエルハイド族の中に、フェーンの親御さんらしき男女を発見する。
ただ、どちらかというと親というよりはフェーンのお兄さんとお姉さんに見えてしまうのはさすがエルハイド族というべきか。
エルフ系は見た目が若々しいというのはユグドラタワーでもデフォルト設定らしい。
「敵はあの2匹しかいないみたいだし、さっきのブーメラン暗殺作戦を試してみるか……はっ!!」
俺は両手に構えた『黒鉄甲の打突旋棍』を2匹のイノシークに向けてぶん投げた。
通常個体のイノシークであれば、これが腹部にクリーンヒットするだけでコアを破壊できるのだが……
「ブヒ……!?」
ドゴッ!! ガキンッ!!
「ブッヒィ……!!」
「くそっ1匹防がれたか!」
俺が放ったブーメラン攻撃に気付いたレッドイノシークがギリギリで『黒鉄甲の打突旋棍』を弾き飛ばす。
インディゴイノシークの方は避けきれず太もも辺りに当たったみたいだが、やはり防御が高いのか、そこまでダメージを受けている様子はなかった。
「ブッヒィ……」
「ブヒブヒ……!!」
「これはもう、正々堂々と戦うしかないかっ!!」
物陰から飛び出して武器を回収しつつ、殴りかかってきたレッドイノシークの攻撃を避ける。
こうして近くで見ると、やはりここまでに戦ってきたレッドイノシークやインディゴイノシークよりも大きいのが分かる。
そのせいで投げ飛ばした『黒鉄甲の打突旋棍』が腹部まで届かず足に当たってしまったのかもしれない。
「はぁっ!!」
「ブッヒィ……!」
「ブヒッ!!」
「くっ……!!」
俺の攻撃を防御の高いインディゴイノシークがガードし、その隙をついて攻撃力が高いレッドイノシークが殴りかかってくる。
ここまでに戦ったイノシークたちはみんな単独で動いていたが、こいつらはうまく連携して戦っている……ユグドラタワーのシステムはこの世界で阿吽の呼吸でも学習したのか……?
「よし、面倒くさいからまとめて倒すか」
地下1階層の攻略パターンと同じ流れなら、おそらくこいつらはフロアボス前の最後の敵だ。
つまりこいつらさえ倒してしまえばとりあえず今日はこの後に敵が襲ってくることはない可能性が高い。
それに、フロアボスと戦う前に1回試しておきたかったしな。
「……〝魔装変身〟ッ!!」
『カモン! マソウチェエエエエンジ!!』
俺は魔装ヴェノムイーターを装着している右手を胸に当て、魔装変身を発動する為の言葉を叫んだ。
ギュイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!
『マソウチェンジ! コォンプリイイイイイツッ!!』
「……変身完了ダ」
身体が軽く、力が溢れてくる。
見下ろした自分の身体はまるでエイリアンだ。
「キャアアアアアアッ!?」
檻の中にいるエルハイド族たちが俺の姿をみて怯えている。
魔装変身を発動した俺の見た目は、きっと目の前のイノシーク以上にバケモノじみているのかもしれない。
とはいえ、そんなことは今は気にしていられない。
魔装変身はかなり体力を消耗するのだ。さっさとこいつらを倒してしまおう。
「ブヒブヒッ!!」
「ブッヒィ……!!」
「じゃあ、行くゼ……ッ!!」
軽く足に力を込めると、踏みしめた地面が反動で抉れるくらいの加速で前に進む。
踏み出した1歩でイノシークの眼前まで突撃すると、そのままこちらを警戒する2匹のイノシークの腹を目がけて巨大なカギ爪のついた両腕を思い切りブチ込んだ。
ドシュッ!!!!!!!!!!!
「「ブ〝ギ〝ィ〝ッ!?」」
バッキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!
「「ブ、ヒィ……」」
…………。
「ふう……討伐完了ダ」